世界樹の迷宮X妄想マスタリー雑記 4周目 天球を抱える星術士

思い付きでつづる妄想マスタリーも4周目ですって奥様

帰郷・3

南海の小国タカトリに気球が流れ着いた。

気流に乗ってレムリア周辺海域を突破出来たものの、そこからはひたすら広大な海との戦いだった。島を見つけては海図と照らし合わせ、時に着水して魚を釣って食糧を確保しては上昇し、そんなことを繰り返しながらようやくタカトリに辿り着いたのは2週間ほど経った頃だった。

気球から降りたタマモ達がまず向かったのは懐かしい花街に佇む老舗の大棚、月遊楼だった。カイエンはすぐに帝への報告には向かわず、一旦身嗜みを整えるためにタマモに同行した。

「ただいま。お風呂入っていい?」

タマモが月遊楼の裏口を開けて、掃除をしていた年の頃はタマモと同じくらいの小柄で幼さが抜けていない禿、小梅に問いかける。

「あ、タマモだ。どこ行ってたの」

「ちょっと仕事で遠くにね」

「あ、そっちの人達はお客さん? おお、これが外国人」

小梅がルイージャとロウランを見て、驚いた表情を見せる。タカトリの国に生まれ、生まれた頃から下働きの禿として花街で育った小梅は国から、それどころか花街から出たことすらない。タルシスの装束、特にロウランの着るウロビトの植物を連想させるような衣服は生まれて初めて見ることになる。

「外国人、すごい。くさい」

しばらく体を洗っていない2人の放つ体臭に負けたのか、小梅が眼をしばしばさせて鼻を摘まみながらタマモの後ろへと隠れ、タマモも同じく酷く臭うことに気付いて、慌てて木綿の手拭いを用意する。

そして風呂場の方を指さし、早く行けと云わんばかりに指を何度も突き出した。

 

風呂から上がり、ようやく人間らしいにおいにまで落ち着いたタマモは、大女将に挨拶しておかねばと、月遊楼の上階へと向かった。

まだ昼前だからか大女将が眠たそうな顔で帳簿をつけている。

「ただいま」

「4ヶ月ぶりだね。仕事は済んだのかい?」

タマモは首を振って、今回は一時的な帰郷に過ぎず、報告が終わればまたレムリアに戻ることになるだろう、と大女将に告げた。

「そんなことだろうと思ったよ。あの男の欲には際限がない、ひとつ手に入れたら次にまた次にと続いていく、駄々をこねる子どもみたいなもんだ」

大女将が皮肉めいた口調で言い捨てて、煙管を咥えて煙を吐き出す。

そういえば大女将から聞く帝は、他の芸妓やシノビから耳にする恐ろしい印象とはまた違う、どちらかというと我儘で自制の利かない若者のような印象を受ける。

大女将の年齢は知らないが、おそらく還暦はとうに過ぎている。そのくらいの年の女から見たら、そういう風に見えるのかもしれない。

タマモはそんなことを考えながら、目の前の老齢の女が吐き出す煙を眺めていた。

「どうしたんだい? 人の顔をじろじろ見て」

「元気そうでよかった、って思ってたんだよ」

大女将は嘘をつくんじゃないよ、と鼻で笑って、輪っかのような煙を吹き出した。