世界樹の迷宮X妄想マスタリー雑記 4周目 天球を抱える星術士

思い付きでつづる妄想マスタリーも4周目ですって奥様

酒盛り

タマモは帰還早々疲れた顔で酒場へと向かっていた。マギニア軍を通さずにレムリアから勝手に抜け出したことをギルド長のミュラー咎められ、気球の存在がマギニア軍に知られたことで帝国から派遣された将兵たちに迷惑極まりないといった顔で睨まれ、おまけに帝という有難迷惑でしかない土産まで着いてきた。

帰郷したタマモは帝が実弟の一人でもある左大臣に帝位を譲ったことで、自分の首の行方という肩の荷こそ降りたものの、相変わらず任務は継続して残っている。その任務次第ではおそらく、武力や戦働きで大いに劣る次代の帝は前帝とは違う方針を取るだろうが、それでも一族の命運はまだ任務の結果におそらく左右され得る。結局上が変わっても生き方は変わらない。狸の頭目が言った通り、上など誰でも同じなのだ。

タマモは暗い溜息を吐きながら、酒場の扉を開いた。

酒場ではすでに見知った顔が酔いつぶれている。今日は帰還祝いではなかったのか、なぜ自分が酒場に着いた時点で潰れているのだ。タマモは納得いかない様子でカウンターに腰かけ、今日はせめて自分を甘やかそうと普段は頼まない上等な葡萄酒を瓶のまま出してもらった。

「中々に気に入ったぞ、お前ら。どうした、もう飲める者はいないのか?」

かつて帝だった男、面倒だから今後も帝と呼ぼう、と決めてから引き続き帝と呼んでいる男が、ゴルドーとグリゴを前にして酒を注いでは水のように飲み干し、ついには酒場客屈指のの大酒のみであるふたりを潰し、それでもなお飲み足りないと更に酒瓶を追加した。

どうやら帝という人物は、性格だけでなく酒の量まで性質が悪いようだ。それにしてもよく飲むことだ。これまで病で臥せっていた反動か、それとも生来酒豪なのか、一向に留まる気配を見せない。

「タマモよ。ここは面白い店だな、我が国では滅多に手に入らぬ酒ばかりだ」

ご機嫌そうで何よりだ。タマモは呆れた顔を極力出さないように努めながら、グラスに葡萄酒を注いだ。

夜が更け、ついには帝も酔い潰れて寝静まった頃、タマモはひとり葡萄酒をちびりちびりと呑んでいた。

「タマモちゃん、実は君が一番酒に強いんじゃないの?」

酒場の店主がにこやかな顔で新しい酒瓶を開ける。

「これでもシノビですから。刺激や酒には耐性が出来るように育てられてるんです」

シノビは毒や薬を扱う為、酒に強くなる者も多い。特に毒物や薬物の扱いを専門とする狐のシノビはその傾向が強く、タマモも飲めば気分こそ高揚すれど足元が覚束無くなるまでは酔わず、養父ともなれば酒の海に浸かっても足元が揺るがないだろう。そこまでいくと酒など楽しくもなんともないらしく、養父が酒を飲んでいた場面をほとんど目にしたことがない。

せっかくの帰郷を果たしたのに、色々と慌ただしく、養父とは二言三言話す程度しか時間を作れなかった。タマモの胸には後悔が残り、心の蔵にちくりと棘が刺さったような痛みを覚えた。

もし次に帰る機会があれば、もう少しゆっくり過ごそう。タマモは新しい葡萄酒を開けて、甘酸っぱい香りを口の中いっぱいに味わった。