世界樹の迷宮X妄想マスタリー雑記 4周目 天球を抱える星術士

思い付きでつづる妄想マスタリーも4周目ですって奥様

策士と老人

ギニアの郊外に佇む屋敷では、盤面に向かって髭を蓄えた白髪の老武士が将棋の駒を指して王手を告げ、その対面では桃色に染まった髪の毛の一見異様な男がチェスの駒を動かしてそれを遮る。

「ねえ、爺さん、ひとついいかしら?」

「待ったか。待ったは一回までだぞ。その貴重な一回を、まだ盤面の流れが滞っていない中盤のこんなところで使ってもいいのか?」

「違うわよ。あたしは暇だったらチェスでも指そうって言ったのよ。なんで将棋の駒で乗り込んでくるわけ?」

「決まっておろう。将棋の方が得意だからだ」

老武士がさも当然と言った具合に答え、対面の男が馬鹿馬鹿しいといった表情を浮かべてチェスの駒を片付けていく。敵前逃亡はすなわち敗北也、老武士は高らかに笑いながら盤の横に添えられた酒瓶を手に取り、ぐびりぐびりと豪快に呷っていく。

「ところで爺さん、噂のナインテイルズとかいう連中、とうとう海の一族を出し抜いたらしいわよ」

「それなら儂も今朝方耳にしたぞ。次はマギニア軍と共に新たな迷宮に挑むそうだ」

ギニア軍が冒険者達を使って回収した書物にはレムリアの地図が含まれており、すでに有力なギルドは新たな迷宮「西方ノ霊堂」に挑む準備を始めている。老武士が猛禽のように鋭い眼を見開き、刀を手に立ち上がった。

「ならば我らも動く頃合いよ! 海の一族もマギニア軍も皆出し抜いて、横槍入れて掻っ攫ってくれるわ!」

「それなら私にいい案があるのよね」

桃色髪の男が不敵な笑みを向けた。

 

その翌朝、空き地で訓練がてらメイスを振っていたヘルベルトの前に、老武士と桃色髪の男が姿を現した。

「朝から精が出るわねえ、若君様」

ヘルベルトはメイスの先端を地面に下ろし、杖代わりに体重を預けて、二人の方に向き直る。その顔は特に驚きも無いのか、あくまで無表情といった様子である。

「その若君様というのはやめろ」

「それはそれは失礼しました。ところでヘルベルト様、ギルドの方は如何?」

「如何も何も、お前達も聞いいる通りだ。次々と成果を上げて、マギニア軍からも高い評価を得ている。メンバーも一部例外もいるが、腕の立つ連中ばかりだ。この調子で行けば本当にレムリアの秘宝を発見できるかもしれないな」

桃色髪の男が手を叩いて、ヘルベルトに詰め寄る。

「そうなのよ。実に素晴らしい成果、このままでは彼らはマギニア軍の宿願を叶えるでしょう。しかしそれは我らの本懐ではない。そろそろ横槍を入れる頃合いだわ。手柄を掻っ攫うもよし、中から盗み出すもよし、海の一族と交渉して略奪するもよし、手段は選り取り見取り。若君様、あなたが決めてちょうだい」

興奮冷めやらぬ様子の桃色髪の男を手で押し退けながら、ヘルベルトは老武士の方に顔を向ける。老武士は険しい顔つきで首を横に振り、その返事に嘆息しながら額に手を添えて考え込む。

「若君、悩む必要などない。元よりそういう手筈なのだ」

「だがね、僕は結構あのギルドが気に入っているんだ。テオバルトに伝えておいてくれないか、穏便に交渉で済ませたい、と」

桃色髪の男が首を二度三度と横に振る。

「ならばお前達の好きな手を使え。仮に中に入ってきても、僕は黙っておいてやろう」

ヘルベルトはそう告げて、その場から立ち去って行った。その後ろ姿を見送る様に桃色髪の男と老剣士は軽く頭を下げて、しばらくそのまま佇んでいた。