世界樹の迷宮X妄想マスタリー雑記 4周目 天球を抱える星術士

思い付きでつづる妄想マスタリーも4周目ですって奥様

引退・3

失意の中で頭が全く回らないタマモが久しぶりの我が家に戻ると、養父が魚を燻しながら「おかえり」と静かに呟いた。タマモが黙って魚に手を伸ばすのを制しながら「泥棒猫じゃないんだ、ちゃんと言葉で言いなさい」と穏やかな口調で叱った。

タマモは久方ぶりに触れる養父の言葉に僅かだが靄が晴れた、そんな感覚を覚えた。さっきよりも目の前が明るい。養父は以前よりも老けた、というか衰えた気がする。

「白髪が増えたね」

「五月蠅いよ。年を取るってのはそういうことなんだ」

タマモは養父から魚を掠め取り、不意を突いても魚を奪う事など出来なかった以前の日々を思い浮かべ、やはりこの老いた養父を危険に晒すわけにはいかないと改めて思った。やりたいやりたくないではない、しなければならないのだ。

「ねえ、公儀隠密になるように命令が出たんだ」

「そいつは凄いね。その年で召し抱えられた者は風魔にも、シノビの歴史のどこにもいないかもしれない。それで、なりたいのかい?」

タマモはなりたいかどうかじゃない、ならないといけないんだ、と答えた。

養父は微笑みながら、

「お前が決めたことなら反対しないが、勝手に決めさせられたことを認めるわけにはいかないね。よく考えるんだ、自分がどうしたいか。どうなりたいか。何を拾い、何を捨てるのか。シノビは嫌でも心を刃の下に置かねばならない、だからせめて本心から望むことから始めないと、とてもじゃないが、まともではいられない。今夜一晩、ゆっくり考えなさい」

そう言ってタマモの頭を優しく撫で回した。

 

ああ、まったく。こんな用済みの老いた手が、この子の人生を縛っちまうとは、神様ってのはどこまでも俺を苦しめるのだね。

 

養父はいっそ自分の首でも落としてしまおうかとも考えたが、それもまた娘の心に一筋を癒えぬ傷を残してしまう、そんなことは百も承知だった。生きても枷となり、死してなお枷となる。そんな役に立たないのが親の真似事をやっているのだ、だからこそせめて選ばせるしかないのだ。

養父は燻した魚を齧りながら、静かに茶を啜った。