世界樹の迷宮X妄想マスタリー雑記 3周目 赤髪の暗殺者

思い付きでつづる妄想マスタリーも3周目ですのん

引退・4

養父である男は己の人生を振り返っていた。思えば望みなど何一つ叶わない人生であった。シノビとして幾ら励んでも頭角など現せなかった、そうこうしている内に一族は狗も狸もひっくるめて途方もない失敗に陥り、下っ端に過ぎない自分の目の前で首領もその家族も元服したばかりの若い子息までもが処刑された。

ああ、まったく嫌な時代だった。上の者達の下らない都合に振り回されて一族郎党皆が散っていった。自分がもう少し強ければ、せめて首領だけでも逃がすことが出来たのかもしれない。その後悔は今もなお喉に絡む痰のように心の隅にへばりついている。

生き恥を晒すように自分と数名の才の無い役立たず共だけが生き残ってしまった。ただひとり、まだ幼い先代の末娘を除いて。その幼い娘は立派に成長して、今年の暮れには十五になる。そして今朝方、自分の手を放れて、自分の与り知らぬ友達や仲間の為に遠くの島へと飛んで行った。

もう思い残すことは何もない。随分と楽しい人生であった。

「刑部君、シラチゴ君。タマモのことを頼んだよ」

男は視界の片隅に見えた幼馴染にも近い狸の首領と、若い頃から何度も面倒を見た狗の首領に、娘の行く末を託して静かに目を閉じた。

 

莫迦だねえ。あんたも娘も莫迦なせいで、しこたま蓄えた財産がみんな吹っ飛んじまったよ」

男が目を開くと、大女将が厭味ったらしい口調で煙管を咥えていた。

老舗の大棚の店主とは思えないような襤褸を纏い、掌の上で一食分にも満たない小銭を捏ね繰り回している。

「でもまあ、なんだね。意地汚く溜め込んでたおかげで、あんたの身柄も買えたし、店の方はうちも爺の方も、茶葉のひと匙だって持っていかれずに済んだよ」

大女将が笑いながら、

「また一から出直しかい、腰が痛くて無理がきかない年だってのに」

と嫌味を吐いて、月遊楼の厨房へと消えていった。

 

あの子の傷にならなくてよかった。

男は涙を一筋二筋溢して、老い衰えた腕で顔を覆った。