世界樹の迷宮X妄想マスタリー雑記 4周目 天球を抱える星術士

思い付きでつづる妄想マスタリーも4周目ですって奥様

呆と執・2

ウィルヘルム・ゴダール、侵略する領土あるいは略奪王。その名は同盟を結んでいたヘルベルトとテオバルト、かつて従者であったシャロンから耳にしたことがある。支配者には幾つかの種類がある、例えば帝の様に不安分子を一掃しながら領土の守りを固める者、統治は部下に任せて領土を拡大に心血を注ぐ者。話で聞くウィルヘルム・ゴダールは間違いなく後者に当たる。よく言えば次から次に富を齎す者、悪く言えば抑制の効かない獣。

もっと恐ろしい獰猛で狡猾な人物像を思い描いていたが、まさか呆けが進み、目の前の人間の判別も出来ない老人だとは予想だにしていなかった。

ミグもその様子がおかしいことに気づきはしたものの、彼には彼なりの理由があるのだろう、猟銃を下ろすことなく、より強く狙いを定め直した。

しかしどういう考えであれ、こんな状況を黙って見過ごすわけにはいかない。

「ミグさん、一旦街まで戻りましょう」

「お前は先に戻っていろ。俺はこいつを撃ってから戻る」

「駄目です」

タマモははっきりと否定して、ミグの肩に手を掛ける。ミグの視線が後ろへと向いた一瞬の隙を突いて、呆けていたはずの老人が銃身を掴み、そのまま取り上げる様に腕を大きく上に突き上げながら、もう片方の手で銃床を横から叩き、更にミグの手の甲に折り曲げた指の先を突き刺した。そのまま銃を奪い取り、棍棒の様に両手で握り直し、横凪に一回二回と往復させながら打ち込む。

「この痴れ者めが。わしを誰だと思うておる」

老人が猟銃を振り上げると同時に、首筋に針が刺さる。タマモが咄嗟に吹き出した睡眠効果のある薬液を浸した含み針だ。老人は猟銃を手放して地面に倒れ、そのままぐったりと動かなくなり、やがて微かな寝息を立て始めた。

「驚きましたね」

「敵意に反応して、一瞬正気に戻ったんだろう」

ミグはしくじったと云わんばかりに顔を歪めたが、それが殺気を向けたことに対してなのか、それとも視線を逸らしたことなのか、或いは猟銃を奪われたことなのか、タマモには判別がつかなかった。

 

帰りの道中、ミグはタマモに一言だけ、余計な言葉を足しもせず、後ろめたいと引きもせず、最低限の彼らしい言葉で告げた。

「隊の仲間の敵討ちなど取るつもりもなかったが、その男の顔を見たら気づいたら銃を向けていた」

と。

 

後日、シャロンから聞いた話によると、その後ウィルヘルムは冒険者ギルドに一旦身柄を保護された。呆けている時間もあれば、物言いから思考まではっきりしている時もあるという。

「ドロテーア様は、あの方の娘よ。もう20年以上も前、領主になってそれほど時間の経たない頃に敵対する領主の先兵に襲撃され亡くなった、と聞いてる。その事が切っ掛っかけで敵地への侵略を積極的に行いだしたのだとしたら悲しいことね」

仮に呆けていて、夢でも見ている様な状態でも、一瞬でも娘に再会できた気持ちになったのなら、少しは救われたのだろうか。そんなことをタマモは考えながら、シャロンが衛兵長に渡された羊皮紙に身元引受人のサインをしている姿を眺めていた。