世界樹の迷宮X妄想マスタリー雑記 4周目 天球を抱える星術士

思い付きでつづる妄想マスタリーも4周目ですって奥様

Ⅱ 令嬢、飛行都市に舞い降りる

「外の世界は広いと理解してたつもりになってたけど、まさか空を飛ぶとは思ってもみなかったわ」

嵐の中を突き進む飛行都市マギニア、磁軸から飛ばされた令嬢一行がその甲板部分にある市街地に舞い降りたのは3日前の事である。

伯爵が用意した磁軸は、シドニアに住むルナリアと呼ばれる知恵に長けた耳長の一族が、世界樹と麓の町アイオリスを繋ぐ樹海磁軸を模倣して作ったものだったが、どうやら完成まで程遠い、特に転移先の安定に欠けるものであったらしく、まったく見当違いの場所に飛ばされてしまい、気が付いたらマギニアと呼ばれる飛行都市に漂着していた。

幸いにもこの飛行都市は世界各地から多種多様な人種、職業の冒険者を集めており、自分たちの様な肌の色の悪い者も、そういう種族です、という顔をしておけば然程追及もされず、自然と乗員に混ざることが出来た。

運が悪いのは、雑多な人間が数多く混在しているため、主の悪食がどこまで抑えていられるかわからないことだ。現に椅子に腰かけたまま、ぴくりとも動かずに、人の往来を無言で凝視している。これは獲物を見定めている時の顔だ。

「お嬢様、くれぐれも血は吸わないでください。騒ぎになると困りますゆえに」

ヴラムは真剣な表情で忠告する。シドニアの外で吸血鬼の不死性が担保されるのか、そもそも寿命が無制限な程に長いというだけで、心臓に杭でも刺されたら流石に主でも命はない。それこそ、血を捧げて加護を与えられただけの自分達は、老いこそ免れているが普通に怪我もすれば風邪もひく。こんな何処とも知れぬ場所で朽ち果てるのは冗談では済まない。

「わかってるわ。ところでヴラム、この都市は何処へ向かってるの?」

「どうやらレムリアなる絶海の孤島に向かっているようです。そこで宝探しをする為に世界各地から冒険者を募った、と先程酔っ払った筋骨たくましい二人組の冒険者から聞きました」

「宝探しね。いいわ、私達もそれに乗りましょう。理由はひとつ、面白そうだからよ」

 

主は意気揚々と宣言して、反論も許さぬといった勢いで冒険者ギルドに向かい、さっさと登録を済ませて、おまけに2人ほど見知らぬ男女を連れて戻ってきた。

 

「ヴラム、こちらタルシスとかいう場所から来たピィエン、それと連れのオルロック。ふたりともギルドに入ってない野良冒険者だからスカウトしたわ」

ピィエンと名乗る少女は手足が小枝のように細く、植物を模した独特の衣服に身を包んでいる。耳もルナリアを想起させるように長く、どうやらアースラン、いわゆる人間種とは違う種族のようだ。

「ピィエンだ、よろしくな」

華奢な体躯とは似つかぬ荒い口調で名乗り、半ば強引に握手をしてくる。

「俺はオルロック、まあよろしくな」

オルロックと名乗る男は自分達とは対照的に肌の色が黒褐色で、服装も含めて全体的に黒い。夜に紛れたら見失いそうなほどに黒い印象を与える外見の持ち主だ。

「改めて自己紹介するわ。私はカミラ、こっちはヴラム、もうひとりエルゼベートがいるけど、今は多分酒場にでも行ってると思う。揃ってはいないけど、この5人が我がギルド、暗闇のヴィオラのメンバーよ」

ヴラムは即座に自分の意思を放棄して、首を縦に傾けてふたりに会釈をする。主が決めたのならば仕方ない。従者はただ従うのみ。

 

そうこうしている内にマギニアは嵐を抜けて、燦燦と照り付ける日差しの下、絶海の孤島レムリアへと到着した。潮風がきつく、日差しは暴力的なほどに眩しい。

カミラは木陰で蝙蝠傘を差しながら、じりじりと照らす太陽から逃げる様に全身を布で覆って、ひたすら住処の確保を待っていた。

ヴラムやエルゼベートら加護を与えられただけの従者は陽の光の下でも十分に活動できるが、純血の吸血鬼たるカミラにとっては陽の光は毒に等しい。かといって動けぬわけではなく、頑張れば人並み以上に活動は出来る。ただ無駄に苦労をしたくない為、早々に住処を確保して、宝探しは夜に行うと決めていた。

隠しておくと後々面倒ではあるし、ばらしたところで然程害もないのでピィエンとオルロックのふたりには自らが吸血鬼であることを明かし、何の制限も受けない夜になれば立っているだけで傷を癒すほどに肉体が活性化し、血を捧げることで加護を与えると説明した。

「それにしても、異国の人間の血はまた趣深い風味をしてるのね」

カミラは何の躊躇もなく捧げられた二人の血の味を思い出しながら、ふふっと笑いながら、しかしすぐに太陽を恨めしそうに見上げた。

 

「お嬢様、宿屋の手配が完了しました。それと冒険者ギルドも相室になる場合もありますが、一室自由に使ってもよいそうです」

「お嬢様、酒場には生き血は置いてねえけど、飯と酒は十分にうめえ。腹が減ったら酒場に行くとよさげだわ」

その日の晩、ヴラムとエルゼベートが速やかに衣食住を揃え、カミラは酒場でギルド結成の乾杯をして葡萄酒を浴びる様に飲み干し、宿屋で猫に威嚇されながら翌日の夕方まで満ち足りた眠りについたのであった。