世界樹の迷宮X妄想マスタリー雑記 4周目 天球を抱える星術士

思い付きでつづる妄想マスタリーも4周目ですって奥様

Ⅱ 令嬢、廃屋で怪談談義に勤しむ集団を虜にする

ギニア市街地中心部、冒険者御用達の万事屋ネイピア商店。腕のいい職人を揃えた工房が併設するその店は品揃えこそ良いものの、まだレムリアに上陸して日が浅く、武器から薬品に至るまで樹海で取れた素材を加工して卸していることもあり、その棚に並ぶ商品は全ての冒険者に満遍なく行き渡らせる程には多くない。

「ねえ、ヴラム。私達の身の安全の為にも、この店の品揃えをもっと充実させるべきだと思わない?」

「仰る通りですが、迷宮を探索するには衣料品も武具も不可欠です。ある程度のギルドの戦力に左右されますが、素材を集める為に素材を使って準備を整える、このジリ貧ともいえる構造が解消しない限り、そう易々と品揃えも充実しませんよ」

カミラは名案があるといわんばかりに笑みを浮かべる。

「私達はそんなに得意じゃないじゃない、素材集めって」

確かにギルドの誰一人として、素材集めに関しては長けている者がいない。例えばカミラとエルゼベートは草花にはそれなりの知識があるものの、鉱物や樹木に関しては人並みの知識しか持たない。同じくピィエンとオルロックは植物に詳しいものの、鉱物に関しては無知に等しく、一方でヴラムも鉱物にこそ精通しているが草花も樹木も知識は浅い。これはそもそもの興味の方向というか、個人の資質によるところも大きく、無理に知識を身につけようとしても期待出来るほど伸びてはくれない。

「だから、そういうのが得意な人を作ればいいと思うの」

令嬢は探す、ではなく作ると明言した。確かにこれまで吸った血液から得た情報を選り分けて、その分野のみに特化した知識を与えれば不可能ではない。事実、ランスィルの城内には樹海採集術と呼ばれる素材集め専門の技術を与えられた従者も何人かいた。そしてそれを生業とする従者全員が例外なく、城主である伯爵から知恵と技術を与えられたのであった。

「というわけで目ぼしい人材を探しましょう」

「念のため聞いておきますが、具体的には?」

「そうね。市街地の住民と関わるのが嫌いな変わり者で、何か変化が起きても気づかれずに済んで、出来ればギルドそのものが変わっている連中がいいわ」

カミラは指を三本立てて条件を示した。それがすぐに該当者を探して来い、という合図だと執事は察し、そんな者達が都合よく集まる者かと訝しみながら、取っ掛かりだけでも作ろうと冒険者ギルドへと向かった。

 

何処の世界にも変わり者はいるものである。マギニア市街地で時折噂に出てくる不死者の話等に傾倒し、迷宮でたまに見つかる偶然妙な形に重なった岩や歪んだ樹木に原始宗教的な解釈を付与し、郊外に建てられた図書館で伝承を読み耽り、各々の隠秘学を拡大させて互いに語り合う、そんなことに夢中になるギルドがある。

彼らは3日に1度は迷宮近くの廃屋に集まっては朝まで語り明かし、本来の目的である迷宮探索を疎かにして、周囲の冒険者と壁が出来ているという。

ヴラムの報告を受けたカミラは満足気な表情を浮かべ、早速廃屋近くの森の中に潜んで、隠秘な夜会が始まるのを今か今かと待ち構えた。

廃屋に明かりが灯る。

カミラが聞き耳を立てると、今夜は吸血鬼に関する話で盛り上がっているらしく、ところどころに血であるとか十字架であるとか、それらしい単語が登場してくる。時に興奮冷めやらぬ熱狂ぶりが響き、時に笑い声の混じった談笑が聞こえ、もしかしたら正面から交渉しても話が通じるのでは、と考えた吸血鬼の令嬢は、廃屋に忍び寄り正面から扉を開けて中へと入っていく。

執事が叫び声を聞いたのは数十秒も経たない頃であった。

泡沫宗教や土着信仰、秘密儀式に興味を示す者は意外と多くいる。しかし自らの身を人外のしもべに堕としたがるものは決して多くない。それが慣習と化して節目節目の儀式として取り入れているランスィルであっても、吸血鬼の城に出向くのを拒む者は毎年少なからず存在するのだ。いきなり目の前に吸血鬼が現れ、血を吸われ、しもべとして変異させられる等、彼らからしても迷惑極まりない話だろう。

「しかしお嬢様は、一度こうと決めたら梃子の原理で強打しても考えを変えぬ御方。どうして伯爵様の良いところを受け継がず、悪い部分ばかり似てしまうのか」

嘆かわしい、と呟きながらヴラムが廃屋に足を踏み入れると、眼球を真っ赤に変質させた5人の隠秘学者が中央のテーブルに向かって跪き、テーブルの上に腰掛けたカミラが口元をハンカチで拭きながら、まるで食後のような顔で跪く新米従者達を見下ろしている。

「ヴラム、紹介するわ。彼らが採集を手伝ってくれるギルド、マゴリアナの皆よ」

もしかすると元々はそれなりに腕の経つ冒険者だったのかもしれない。リーダー格の中年の男は立派な服装をしているし、他の面々もそれぞれ専門分野に長けていたのか、恰好はしっかりとしている。主によって作り変えられたのだから、それも意味のない昔話に過ぎないのだろうが。

 

しかしこのまま孤立して、変わり者として食い逸れるよりは、きちんと働いて報酬を得て暮らす方がいいのかもしれない。多少胸に引っかかる魚の小骨程度の罪悪感を感じながら、ヴラムは自分に言い聞かせるように言葉を並べ、能天気に異国の民俗学の書物などを読んでいる主をしばらく眺めていた。