世界樹の迷宮X妄想マスタリー雑記 3周目 赤髪の暗殺者

思い付きでつづる妄想マスタリーも3周目ですのん

Ⅱ 令嬢、白い蝙蝠の群れに歓喜する

巨人の遺跡。密林に覆われた狭い迷宮の各所に、まるで侵入者を阻むかのように石像が置かれた謎の遺跡。いったい何処の誰が何時何の為に作ったのかわからないが、こういった場所には価値のある宝がある、というのは古今東西からの決まり事だ。むしろ何もない場所に敢えて石像を配置したのだとしたら、その者は余程性格が歪んでいるか、他人から理解されない変人かどちらかだろう。

レムリア上陸初期に出会った薬師の少女に逸れた仲間の探索を頼まれて、カミラ達は何やら大発見の匂いがする遺跡を探索していた。

「それにしても妙な石像ね」

押しても微動だにしない石像から、僅かに嫌な気配を感じたカミラは、石像そのものと周辺を注視する。

「昔、城に出入りした石工職人から聞いたことがあるわ。世界には仕掛けを作動させることで地面から現れる石像や侵入者の気配を感知して追跡する石像、複数の石像が合わさって全く別の巨体を形成するもの、自己再生能力を持った石像。創造主の発想と力量次第で如何様にも作れるらしいけど、これはどういった仕掛けが施されてるのかしら」

「今のところ動く様子はないな。どうする?」

ピィエンが念の為にと石像周辺に陣を張りながら、しかし先程から一向に動く気配すら見せない石像を見つめ、剣先で突いてみたり足蹴にしてみたりする。

石像はかなりの強度で、手持ちの武器では傷をつけることも難しそうだ。半刻程前に星術での破壊も試みたが、火球や電撃はまったく意味がないようで、唯一氷柱のみ表面を一部凍らせることに成功したが、そこから破壊する方法を見い出せずにいた。

「壊さない事には扉が開かねえんだよなあ、邪魔くせえ」

エルゼベートが毒づきながらメイスで叩いてみるも、やはり石像は何の反応も示さない。

仕方ないかと石像から離れようとした瞬間、大型の猿が茂みから飛び出してくる。どうやらこちらの隙を窺っていたらしく、背を向けたのを好機と捉えたようだ。

「甘いんだよ、馬鹿が」

石像への鬱憤を晴らすかの如く、エルゼベートがメイスで横殴りにして猿の体勢を崩し、すかさずオルロックが喉元に剣を投げつけてとどめを刺す。

「成程。どうやら戦闘に反応するようですね」

ヴラムが石像が短い時間ではあるものの確かな反応を示したのを見逃さず、この石像が戦闘或いは戦意に反応すると仮定して、主と仲間達に提案する。

「お嬢様、ここはひとつ、派手に時間をかけてだらだらと戦いを長引かせましょう」

 

ピィエンが茂みに火を放ち、慌てて飛び出してきた大猿にカミラとオルロックがすかさず致命傷を避けた攻撃を仕掛け、生かさず殺さず、しかし戦意も失わせずに一進一退の戦いを繰り広げていると、これまで一切動くことのなかった石像が鈍重ではあるものの一歩一歩足を進めて近づいてくる。

「動いた。ということは戦いを終わらせたら止まるのかしら」

カミラが無造作に鎌を振り下ろし、大猿の頭を両断して息の根を止める。すると石像も動きを止めて、再び沈黙へと至った。どうやらヴラムの仮定は当たっていたようだ。石像を動かすには戦意を感知させ、止める時は戦闘を終わらせたらいい。

無駄にあれこれと試していた時間は無駄になったが、これで道を塞ぐ石像を排除することは出来る。

カミラ達はじっくりと時間を掛けながら、迷宮を奥へ奥へと進んだ。

 

「それにしても誰が作ったんだ、こんなめんどくせえの」

石像を動かし終えたエルゼベートが額に流れる汗を拭いながら毒づいた。どうやら単純に力の殴り合いを好む戦闘狂の侍女には、この迷宮の仕掛けは面倒でストレスとなっているようだ。同じく戦闘狂に近い性質のオルロックも苛立つ様子を隠せずにいる。

「でも、これだけ面倒な仕掛けを作るくらいだから、余程私達に触れて欲しくない宝が隠されてるんじゃない?」

同じく血にも肉にもならない石像の処理に無駄に疲労を重ねていたカミラが、自分を励ます意味も込めて宝の存在を匂わせる。

これまでの探索範囲からして、おそらく残る場所は2箇所の扉。そのどちらかに宝があるに違いない。カミラは無理矢理にでも一行の士気を高めながら、水辺に面した方の扉を開く。

「どうやら正解みたいね」

扉の奥はかなり広い空間になっており、中央に巨大な石像が鎮座している。その石像はこれまでの仕掛けと違い、単純に侵入者に反応するらしく、こちらに向かって戦闘態勢を取り始めた。

「さあて、もういい加減、石像の相手も飽きたし、存分に踊るわよ」

カミラの掛け声を合図に一斉に石像に飛び掛かる。即座に陣を張り、毒を付与した鎌で斬りつけ、残像を出しながら何度も剣を浴びせ、属性を宿した砲剣で表面から確実に破壊していく。途中、力尽きた石像が再生することもあったが、それでも休むことなく攻撃を続け、ついに石像の破壊に成功する。力と力の純粋な勝負に打ち勝った頃には、一行はもう剣を振り上げることも出来ない程消耗していた。

「宝は何処?」

カミラが周囲を見回すが、それらしいものは何一つとしてない。ただ空虚ともいえる広い空間が在るだけだ。

「もういい。ヴラム、私はもう動けないから、背負って連れて帰って」

「お嬢様、いい年して我儘は止めてください。それに扉はもうひとつあります」

ヴラムが背中に寄り掛かってくる主を制しながら、もう一つの扉を指し示す。もしかしたら正解はあちらの扉で、そこに宝が隠されているのかもしれない。

最後の気力を振り絞ってカミラが扉を開く。

目に飛び込んできたのは白いふわふわした毛玉の様な蝙蝠の群れだった。

その姿を確認した薬師の少女が蝙蝠の群れに走り寄り、その姿に思わず魅了されたカミラもまた思い足を踏み出して駆けだしていった。

「なんだよ、宝じゃねえのかよ」

「あの石像は何を守ってたんだ?」

「まあいいじゃねえか。お嬢様も喜んでるみてえだし」

「そうだな、それに貴重な素材も集まった。これを金に換えて装備でも整えよう」

不満を漏らすオルロックとピィエンを、侍女と執事が宥める。本音を言えばふたりも宝があった方がいいとは思っている。しかし故郷を離れてから異国の地で苦労する主が見せる笑顔も、また宝と同じくらい、否それ以上に大切なものである。

「いや、宝の方がいいに決まってんだろ」

オルロックの嘆きが密林の奥へと虚しく消えた。