世界樹の迷宮X妄想マスタリー雑記 3周目 赤髪の暗殺者

思い付きでつづる妄想マスタリーも3周目ですのん

Ⅱ 令嬢、蘇った死体を従える

男はかつてオットー・ノーマヴァーブラウシュアーだった。平凡な貴族の家に生まれ、特別優れた点も欠点もない平凡な成績で士官学校を卒業し、同世代の貴族の子息達がそうしたようにマギニア軍に志願し、抜きん出もせず落ちこぼれもせず平凡に経験を積み、迷宮の調査を行い冒険者のサポートするマギニアの調査部隊に入隊した。そして赤毛の巨大な熊に襲われて命を絶った。そのはずであった。それがマギニアの平凡な男オットーの一生のはずであった。

しかし何の皮肉か、神の悪戯か、オットーは血の様に赤い瞳の令嬢の手で治療され、全身に得体のしれない獣の肉を埋め込まれ、蘇った死体として再びマギニアの地を踏むこととなった。

「それで、あんたは俺にどうしろって言うんだ」

オットーは隣で武具を見繕っている令嬢に問いかける。自分はこれからどんな扱いを受けるのか、蘇らせてもらった恩を返さなければならないのか、命と秤に掛けれるくらいの働きをさせられるのか、或いは命を再び失うことになるのか、オットーの脳裏に巨大熊に襲撃されて意識が途絶えるまでの恐怖が浮かび上がっては消えた。

令嬢は一瞬考える様な仕草をしたが、すぐに何も考えていなかったことを表情で告げ、くすりと笑いながら答えた。

「心配しなくても命を取り上げたりしないわ。というより、正直に話すと蘇生実験をしてみたかっただけで、その後の事なんて考えてなかった。でも折角蘇らせてあげたんだから、もしよければ私達のギルドに入ってくれるかしら」

意外だった。オットーは命を質に奴隷の様に扱われることを覚悟していた。しかし目の前の令嬢は特に目的もなく自分を蘇らせ、特に損得もなく今後の自由を与えてくれた。

これまで平凡な人生を歩んできたオットーは、これを幸運なのか不幸なのか判断しかねていたが、ともかく命の恩人に違いはない。せめて恩を返すくらいはしておこうと考えて、令嬢の申し出を受け入れることにした。

「わかった。俺でよければあんた達に手を貸そう」

「改めてよろしくね、ムスター」

「ムスター?」

聴き慣れない名前に戸惑いながら、しかしオットーは自分の本来の名前をすでに忘れてしまっていることに今更ながら気が付いた。

「マックスでもよかったけど、マックスよりはムスターの方がいいでしょう」

「そうだな、あんたがそう言うならそれでいいんじゃないか」

オットー改めムスターは新たな名前を受け入れて、ギルドの仲間達に顔を合わせる為に酒場へと向かった。

 

酒場ではささやかな歓迎の宴が開かれていた。

「よお、案外元気そうじゃねえか。次は簡単に死ぬんじゃねえぞ」

「それは大丈夫だろう。お嬢様の蘇生術は城から離れたこの地でも成功した。むしろ死にたいと願っても死ねない方が問題かもな」

やたらと柄の悪い侍女と、まだある程度は話の通じそうな執事が葡萄酒の瓶を揺らしながら話しかけてくる。隣のテーブルでは手足が枝のように細い女と浅黒い肌の狂犬のような男が、山羊の乳を発酵させたチーズを齧りながら、ムスターの顔を眺め、

「なんか顔色悪いけど、大丈夫なのか、こんなので」

「俺が知るわけねえだろ」

と心配なのか、侮辱なのか、どちらにも取れる言葉を投げてくる。

更に離れた場所いた男女5人が、ムスターをじろじろと見ながら、手元の紙の束に窓を叩く豪雨の様な勢いで何やら書き記し、

「ほほう、これが生き返った死体ですか」

「どうやって動いてるんです?」

「わかりませんね」

「やっぱりカミラ様の能力では」

「吸血鬼の一族に伝わる秘術かもしれませんよ」

と次々に囃し立てて、あれこれと想像を膨らませながら筆を走らせている。

一部を除いて、ムスター自身も含めて血色の悪い顔の連中ばかりだが、どうやら賑やかで退屈はしそうにない。そして令嬢の存在に慣れているのか或いは人間の区別に無頓着なのか、蘇った死体を見ても恐れも無ければ忌避の感情も無い。

人生、何がどうなるかわからない。

ムスターはそんな言葉を思い浮かべ、第2の人生に乾杯した。

 

こうして元衛兵であり蘇った死体の重装騎士(パラディン)、ムスターが仲間となったのである。