世界樹の迷宮X妄想マスタリー雑記 3周目 赤髪の暗殺者

思い付きでつづる妄想マスタリーも3周目ですのん

番外編 混沌の蝶

ギニア市街地に新たに作られた公営図書館兼空域観測場、ウラニブルグ天文館。そこで館長のティコ・ブライエン14世とタマモは書物の整理をしながら、先日海の一族経由で入手した1冊の本の所感を交わし合っていた。

「なかなか面白い本だと思わない」

「思わない」

同じ書物に対する感想も、読み手が異なれば評価も変わる。知識量に対して些か夢見がちなとところがあるティコは面白いと捉え、薬学以外の知識はそう多くないものの現実的に物事を俯瞰するタマモには荒唐無稽と評された。それが混沌の蝶について書かれた書である。

混沌の蝶。すべての物事にはどれだけ無関係に見えても因果が有り、例えばタルシスで飛んだ蝶の羽ばたきひとつで、遠く離れたエトリアの商家の命運を左右することもある。どれだけ些細で些末な、一見無関係と思われる出来事でも、それは未来を変え得る程の運命力と強制力を持っている。そういった最近一部の好事家の間で流行りの学説だ。

馬鹿馬鹿しい。とタマモは素直に思った。そんなことで未来が左右されるなら、どんな人間の、それこそ個人の選択など意味のないものに成り下がりかねない。他人と比べてどうこうと誇るつもりはないが、それなりに苦節を経て切り開いてきた自分の選択肢が、もっと以前に決められていたりしようなど考えたくもない。

タマモは溜息を吐いて、その書物を棚へと戻した。

「私は面白いと思うけどね。世界には人間が想像もし得なかった出来事が稀に起こる、その原因が突き詰めるとちっぽけな虫けらの行動だったとしたら、それはそれで興味深い仮説だよ」

ティコは本棚の書を数冊手に取りながら、あれこれと理論を捏ね繰り回しながら語る。

そんな仮説のことはどうでもいい、早く姫から頼まれているウラニブルグ天文館の整理を済ませてくれないか。タマモは内心、のんびりと仕事を進める気配もない艦長に毒づきながら、しかし時間分の給金はマギニア軍から払ってもらえるので、このままのんびりと引き延ばすのも悪くはない、とも考えていた。

「ここで私が立てた仮説をひとつ発表しよう」

ティコが人差し指を起こしながら嬉々として詰め寄ってくる。どうやらこれまでの話は前振りだったようだ。どうせ碌な事にはならないので、証明の為の実験と称して天文館の屋根を吹き飛ばす真似だけはしないで欲しい、とタマモは過去数回に渡る爆破事件を思い出しながら信じてもいない神に祈った。

「前にも説明した並行世界論。これはすでに語るまでもないけど、個人の選択肢に対して、選んだ選択肢以外の別の道を選んだ場合の未来が生まれるというものだ。それに混沌の蝶を合わせたのが今回の仮説。過去が未来を変える程強制力を持つのであれば、未来で本来起こるはずの事象を妨げれば、その瞬間にまったく違う過去が生まれるのではないか。つまり未来を変化させれば、並行世界の過去も変わる、というものだよ」

「でも、それ証明できないじゃない。並行世界論も時々語られるけど、誰もその実在は証明できてないわけだし」

ティコはおそらくマギニア、いや海都や他の国の識者や賢者と比べても図抜けた知識量もあるし、それに捕らわれ過ぎない発想力も持っている。なのに、時折呆れる程間の抜けたことを言い出す。地頭が賢くないのか、それとも柔らか過ぎるのか、それは短所ではないし個人の資質としても嫌いでもないが、あくまで天蓋を吹き飛ばすような実験に繋げなければの話である。

「そうだけど、無いとは言い切れない。大きく異なる過去を作り出す為に、手始めに新しく見つかった迷宮の入り口を隕石召喚術で吹き飛ばしてみよう。今のところ新しい迷宮を吹き飛ばす選択肢は見られないから、これは大きな変化を生み出すと思うよ」

「お願いだから絶対やめて」

そんなことをしたら数日の給金が払われないどころか、自分にも余計な負担が掛かりかねない。それに冒険者として新たな発見物を逃してしまうことになる。タマモは提案を却下しながら、ティコの持っていた書物を棚に戻した。

 

突如として遥か上空から現れた隕石群によって、レムリア中心部の地形が一部変化するくらいに削られたのは数日後の事であった。