世界樹の迷宮X妄想マスタリー雑記 3周目 赤髪の暗殺者

思い付きでつづる妄想マスタリーも3周目ですのん

Ⅲ ジェントルとロマーン

編み込んだ髪を絡めた束状の髪、それが頭頂から襟足に向けて幾つも流れた異様な髪型、それがふたつ、それぞれ異様にきつい桃色と紫色をした頭が並んでいる。

オズワルトは自分より頭ひとつは背の高い大柄の二人組を前に、額から嫌な汗が一筋二筋と流れ落ちるのを肌で感じ取った。

ジェントルとロマーン、ピカロが言うには元々はタルシスと対立関係にあった帝国の騎士で、砲剣と名付けられた内蔵火力によって爆発的な威力を斬撃に上乗せできる大型の機械剣を操り、組織の暗殺者の中でも非常にらしからぬ武器と手段を用いる、らしい。

「それで、私達に何の用かしら? 私達を銀獅子のジェントルとロマーンと知って訊ねてきたのよね?」

「私達はいつでもふたりでひとつ、永遠なのよ。貴方にわかるかしら?」

そして屈強な体格と厳つい顔に似合わぬ言葉遣い。到底会話が成立するとも思えない相手を前に、オズワルトは頭の中に鉛のような重さを感じ取り、こんな連中との交渉に向かわせた隊長に恨みごとの一つも言いたくなった。

 

ギニア市街地の郊外に建つ異様に目立つピンク色の煉瓦造りの家。

その中で赤髪の少女と黒髪の眼付きの鋭い副官、白髪の子どもの様な外見の男、派手な桃色と紫色の髪の二人組がテーブルを挟んで向かい合っている。

それにしても異様な風貌だ。メイは目の前の二人組を眺めながら、オズワルトと全く同じ感想を抱いていた。しかし組織から同じ命令で動いている以上、せめて邪魔だけはされないように釘を刺しておくべきだろう。相手の動きがわかるまで放置しておくのも手だが、むしろ当初は様子を伺おうと思っていたメイ達だが、ピカロの様に不必要に衛兵や冒険者の頭数を減らして、姫や軍にレムリアからの撤退を考えられても困る。話し合いのテーブルに持ち込める相手であれば、腹を探ってみるのも悪い手ではない、そう考えを変えたのである。

「あなたが赤蛇の旅団のメイね。思ってたより随分と小さいのね」

「聞いたわよ、赤毛の獣王ベルゼルケルと羊角の獣王ケルヌンノスを屠ったそうじゃない。顔も体も貧相なのに、どこにそんな力があるのかしら」

どうやら自分は随分と侮られているようだ。それも不思議ではない、身長5尺あるかないかの自分の背と、明らかに6尺を超えて7尺に迫ろうかという大柄の相手、大人と子どもでも早々開かない程の体格差だ。腕力では太刀打ち出来るどころか、勝負にすらならないだろう。

「それで、赤蛇が私達に何の用なの?」

「言っておくけど、組織での部隊の地位は色によって決められているわ。私達は銀、貴方達は赤、どちらが上かは言うまでもないわよね」

メイは横に座るピカロに視線を向ける。

「別にそうと決まっているわけではないが、今はどちらが上かは置いておこう」

どうやらこの二人の勝手な解釈のようだ。そもそも色で地位を決めるなど不合理な話だ。金と銀なら上下もわかりやすい、しかし例えば緑と黄のどちらが上かなど解りづらくて仕方がない。

組織内での地位の差がないことを確かめたメイは、元々そんな差があっても無くても構わないのだが、穏便に話を進める場合には無視できない要素である、その差がないのであれば堂々と話を切り出しても問題ないはずだ、そう判断して話を切り出した。

「端的に言うと、貴方達と手を組みたい。私達の目的はおそらく貴方達と同じ、国を永遠に繁栄させる秘宝の発見、或いは飛空都市をレムリアに縛り付けること」

「そうね、私達も同じことを命ぜられたわ」

「私は秘宝を掠め取ることが最上の結果と考えている。その為にも、貴方達や他の組織の者がどう動くか確かめておく必要がある」

どちらがジェントルでどちらがロマーンか判別がつかないが、桃色の髪の男が口元に笑みを浮かべ、

「成程ね。私達がそこの悪徳王の様にマギニアの戦力を減らすように動いたら困る、そういう話ね」

「安心なさいな。私達も敢えて無駄な血を流すのは得策とは考えていないわ」

と、どちらがジェントルでどちらがロマーンかわからないが、紫色の髪の男が続ける。

「しかし私達にも面子ってものがあるの。仮にも元は帝国の誇る騎士、それに組織の中でも頑張ってる方だと思うのよね。ちょっと武勲を立てた程度の小娘に従ったら、他の連中に鼻で笑われてしまうじゃない」

二人組が声を揃えて、メイを嗜める。どうやらこの二人組は恥や外聞は何処に放り投げてきたと云わんばかりの風貌だが、それなりに周囲からの評価を気にする性質のようだ。ならばまずその髪型と色をどうにかするべきじゃないのか。メイは内心で呆れながらも、そもそも戦力を欲して交渉を持ちかけたわけではない、邪魔さえされなければそれで構わないのだ、と己に言い聞かせた。

「これはどちらが上か下か、そんな話ではないわ。貴方達は貴方達の流儀で動いたらいい。こちらは方針を知りたかっただけ」

そう正直に、飾ることも削ることもなく答えた。

 

帰り道、メイは桃色の髪の男に問われた。どうやらジェントルとロマーンの二人組は、この桃色の髪の方が主導権を握っているようだ。

「ねえ、もし私達がレムリアの秘宝探索を選択肢から捨てて、例えばマギニアの動力炉を制圧する為に反乱や暴動を目論んだら、貴方はどう動くのかしら」

「さあ。でも、おそらく貴方の考えているより、少しだけ非情な動きをすると思う」

メイは静かに微笑み、異様に悪目立ちするけばけばしいピンク色の建物を後にした。

 

翌日、メイは宿屋〈湖の貴婦人帝〉の客室で泥のように惰眠を貪っていた。

昨日の交渉時とは打って変わってだらしない姿に呆れながら、ロザリーがその頬をぺしぺしと叩く。

「隊長、とっとと起きろよ。そろそろ昼になっちまうぞ」

「昨日、一生分の会話力を使ったから、今日はもう休むの」

メイが毛布を被り直そうとすると、扉が開き、宿屋の受付嬢のヴィヴィアンと猫のマーリンが駆け込んでくる。普段眠たそうにカウンターにもたれ掛かっている姿からは考えられない程の慌てぶりだ。

「メイにお客さんだよ。早く出て、怖い」

慌てているのではなく、来客に怯えているようで、マーリンも毛を逆立てて唸り声を上げている。

「どうしたの、強盗でも出たの?」

「違うけど、なんか怖いのが来たの。ふたりも」

ふたり? 嫌な予感がメイの脳裏を過ぎった。ジェントルとロマーンだろうか、昨日の今日で掌を返すとは思えないが、念の為、最悪の事態も考慮しておくべきだろう。メイは黒衣を羽織り、腰に先日新調したグルズという棘付きの棍棒と投剣用の剣を提げて、ゆっくりと階段を降りていく。

そこにはもう見ても何も驚かなくなった桃色と紫色の髪の二人組が椅子に腰かけ、メイに向かって不気味に微笑みながら手を振ってくる。

「何か用?」

メイが怪訝そうに顔をしかめる。

「私達、あれからふたりだけでじっくりねっとり話し合ったのよ」

「それでね、貴方と手を組んだ方がよさそうって結論に至ったの」

「手を組むなら親睦を深めるべきじゃない。そんなわけで今から酒場でパーティーを開催しない?」

メイは溜息を吐きながら、二階へと踵を返し、そのまま再び毛布を被った。

ジェントルとロマーンが呼ぶ声が聞こえる。しかし親睦を深めるなど御免だ。メイはロザリーに後のことを任せて、引き続き惰眠を貪ることにした。