世界樹の迷宮X妄想マスタリー雑記 3周目 赤髪の暗殺者

思い付きでつづる妄想マスタリーも3周目ですのん

Ⅲ 死の商人と比較的日当たりのよい泥沼

ギニア市街地の一角、主に衛兵を相手に武器弾薬を提供している銃火器専門店〈モーゼス・ファイアーワークス〉はその日、慌ただしく動いていた。店主であり家長のウージー・モーゼスの下、ガリルとジェリコの双子の兄妹は金庫の中身や弾薬を鞄に詰めるだけ詰め込み、人の気配を察しては蛇に睨まれた蛙のように息を潜め、早朝からまるで夜逃げのようにひっそりと、しかし手だけは火事場泥棒のように逃げ支度に勤しんでいた。

かつて所属していた組織の人間がウージーを訪ねてきたのが数日前、オズワルトと名乗る男は話が出来そうな程度には人間性を保っているようだったが、彼の口から忌々しいピカロの名前が出てきたことで状況は一変した。組織を抜ける際に語らなかった秘密が、あの口達者な人を人とも思わない糞野郎に知られてしまったに違いない。奴は表の商売がしたい、と口にした自分を寛大に足抜けさせてくれたが、おそらく飛行都市に乗船した後に逃げ場のない状況を作り出して、秘密を聞き出して始末するか、秘密を脅しに死ぬまで汚れ仕事をさせるに違いない。そうに違いない、あの男はそういう男だ。

ウージーは追い詰められて目の血走ったドブネズミの様な瞳をぎらつかせながら、鞄に弾薬を詰め込み、締め上げられた鶏の様な叫び声をあげた。

 

「それで、この先にモーゼス一家の店があるの?」

「ああ。俺が訪ねた時は交渉する余地はなさそうだったが、何日か経って向こうも冷静になってくれてるかもしれない」

「だといいけどね」

メイはオズワルトを引き連れて、モーゼス一家の店へと向かっていた。別に仲間に引き入れたいわけではない、組織をすでに抜けた堅気の人間相手にそこまで求めたりはしない。ただ〈ネイピア商会〉でも扱っていない火薬や爆薬を取り扱っていれば少し安値で売ってもらいたい。その程度の目的で向かっていた。

丁度マギニアから凶暴な狼が徘徊する「御神ガ原」での討伐依頼をされたところで、銃弾はあればあるほど有難い。大量の火薬があれば、狼の首領を巣ごと火責めにする、そんな手段も選択肢に含められる。

「駄目かもね」

メイはクローズドの看板を提げた店の中から漂う異様な雰囲気に、高確率で取引にすらならないだろう予感を抱いた。

遠間に店を眺めていると窓が少し開いた、かと思えば、銃弾が雨のように撃ち込まれてくる。メイは大きく地面を蹴って街道の傍らに並ぶ街路樹の陰に隠れ、オズワルトも反対方向に逃げ込み、どうにか事なきを得た。

「オズワルト、火矢の準備」

「いいのか?」

「いいも何も、突然銃撃してくる連中、放置する方が危険でしょ」

まずは相手を制圧して、誤解を生じているなら誤解を解き、改めて話をする。メイは余りにも一方的な対応を残念に思いながら、まずは相手の戦力を建物ごと根こそぎ削る事に決めた。

オズワルトが鏃に油を沁み込ませ、銃弾を降り注がせる砦と化した店に向けて、何本も放ち続ける。建物に火が移り、窓の中にも炎と煙が充満しているのを確認した瞬間、火薬にでも引火したのか、炎は勢いを増して壁や屋根を吹き飛ばし、煤だらけの3体の人影を吐き出した。

メイは転げる人影に向けて駆け寄り、走った勢いのままに手に持っている銃器を蹴り飛ばし、靴底で胴や肩を蹴り抜き、瞬く間に敵対者を鎮圧した。

飛行都市の軍施設から鎮火の為の衛兵が走ってくる。どうして買い物に来ただけでこんなことになったのか、メイは溜息を吐きながら、何に怯えているのか絶望に咽び泣く中年の男を見下ろした。

 

オズワルトが衛兵達に適当に言い訳を繰り返し、どうにか火薬が引火した事故として処理して貰い、あまり関わりたくないのか衛兵も鎮火を確認したらすぐに立ち去って行った。

メイはどうにか落ち着きを取り戻したモーゼス一家を見下ろす。このまま彼らを拘束して処理するのも別段難しいことではない、しかし仕事以外でそんな面倒なことをする高尚な趣味もない。それに理由を聞いて判断しても遅くはない。メイはそう考えて、家長であろう中年の男に問いかけた。

「お前ら、俺達を始末しに来たんじゃないのか?」

「始末されるような心当たりでもあるの?」

ウージーの返答に率直な疑問を返す。彼らが始末される理由、仮に組織を抜けたことが理由なら翌日には消されている、だとしたら違う理由があるのか。メイは頭の中で色々な理由を思い浮かべては打ち消し、組織への反逆或いは知られてはいけない秘密を知ったから、と推測した。

「何か知ったのね」

「そうだ。情報屋や調達係なんてやってると、つい余計なことまで調べちまいたくなるものさ」

ウージーはどうせ消されるなら洗い浚いぶちまけてしまえ、と腹を括ってメイに語った。組織からの待遇に不満を抱いたこと、口達者なピカロより上は顔も名前も知らない事への不信感、そして情報屋を長く熟してきたことで育まれた余計な好奇心で組織の大幹部の足元の影くらいの情報を手に入れたこと、六花議会の情報は知ってはいけない禁忌として考えられていること、そのことを知られて刺客を差し向けられたと思い込んだこと。双子の兄妹も同様に考えているようで、店に踏み込まれたら始末されると勘違いして、父親と共に銃弾を放ったらしい。

なるほど、そういう事情なら先程の狂気染みた沙汰に至るのもわからなくもない。かといって突然銃撃されたことに許せるか否かは、また別の話ではあるが。

「でもまあ、大丈夫よ」

その場凌ぎや落ち着かせるための方便ではなく、メイは一家の話から導き出した結論を告げた。

「貴方たちは組織の秘密を少しだけ知ってしまった。しかし具体的な話は誰にも喋っていない。この知ってはいるけど喋っていない、っていうのが肝で、もしかしたら刺客は貴方の命を奪う瞬間、今際の際で秘密について聞かされるかもしれない。聞かされないかもしれない。でもどちらかはわからないから、その刺客も消すしかなくなる」

「確かに一理あるな。そんな命令、組織の監視下ならともかく、あいつらのいない絶海の孤島でまで実行に移す必要はない」

オズワルトが頷きながら、仮にそんな命令が下されているのだとしたら、如何に馬鹿げたことか口に出して改めて気付く。

「でも飛空都市が食糧庫やレムリア以外の組織の目の届く土地に戻ってくれば、そうはいかない。でもマギニアが絶海の孤島を離れるのは、秘宝を見つけた後のこと」

メイはあまり慣れていない長話に喉の調子を狂わせながら、こほんと咳払いをして、モーゼス一家に笑顔を向ける。

「国を永遠に繁栄させる秘宝、組織はそんな代物を掠め取ってきた功労者をすぐに消すような間抜けでもない。秘宝が本物かどうか確かめるためには時間が必要でしょ。永遠の繁栄を確かなものと認めるには、少なくとも十年単位の時間が必要になる。それに」

「もし始末してしまったら、渡した秘宝が偽物だった場合、本物をどこに隠したかわからなくなる」

ウージーが表情を明るくして呟く。

そういう簡単な話だ。秘宝の真偽が確認するまでは組織も手は出せない。そして本物であれば、それだけの貢献をした者を消すわけにはいかない。恐怖だけでは組織は成り立たない。元より自分の命も軽い連中なのだ、投げ捨てる覚悟さえ決めれば瞬く間に瓦解するだろう。

メイは再び咳払いして、はっきりとした口調で一家に告げた。

「モーゼス一家、貴方たちは私に協力しなさい。強制はしない、汚れ仕事をしろとも言わない。武器弾薬と衛兵から得た迷宮の情報、それを無理のない範囲で提供してくれたらいい」

彼らが組織の秘密を知ったことを、自らも知ってしまったからには、こうするのがおそらく最良の選択肢だろう。彼らを消せば余計な疑いも掛かる、逃がしても彼らと秘密の端程度を共有してしまった事実は面倒事を招きかねない。実のところ味方につける以外の選択肢を封じられていたメイだが、切羽詰まった者同士であれば助かる可能性を示せる者が主導権を握れる。頭まで沈む底なし沼よりは足を掬われる泥沼の方が遥かに快適に見えるものなのだ。

 

こうしてモーゼス一家と固く千切れそうな協定を結び、おそらく来世の分まで会話力を使い果たしたメイは宿屋のベッドで泥のように眠ったのであった。