世界樹の迷宮X妄想マスタリー雑記 4周目 天球を抱える星術士

思い付きでつづる妄想マスタリーも4周目ですって奥様

Ⅲ 囚人564号と猿手のマシラ

この世には望まれない生もある。戦乱、暴動、飢餓、現世の地獄の中で生まれた父の顔もわからない赤子は、多くの者がそうであるように年が二桁になる頃には幾つもの犯罪に手を染め、激情の赴くままに流れに流れて、気がつけば首と手足に枷のついたどん詰まり。背中に障害解放されぬ奴隷としての焼き印を押され、貴族の見世物として拳闘士として殴り合いを繰り広げ、その獣染みた姿は自然に剣を握ることになり、やがて両手剣を手に猛獣を相手にするまでに堕ち、飼い切れなくなった主によって組織に売り払われた。

もし友と呼べる人間が現れていれば、庇護する人間が一人でも名乗りを上げれば、人生は少しは変わったかもしれない。

 

魔魚シルルスを討伐したメイは、宿屋〈湖の貴婦人亭〉の壁に貼られた羊皮紙を眺めていた。ギルドカードと呼ばれる自己紹介の類だが、気がつけば枚数が随分減っている。迷宮の数が増えればギルドの数は減る。冒険に恐れをなした者、負傷して一線から退いた者、他のギルドに移った者、志半ばで命を落とした者、理由はそれぞれだが誰も残らないギルドカードは無情にも剥がされていく。一方で、ギルドカードに記された名前が一人また一人と増え、気がつけば数人のギルドが20人を超える大所帯になっている場合もある。

「そういえば、赤蛇の旅団に入りたいって人がいるんだって」

一緒にギルドカードを眺めていた看板娘のヴィヴィアンが、眠そうな目をこすりながら思い出したように告げてくる。

反射的に嫌そうな顔を返すと、面白がって笑いながら、

「有名人も大変だね」

と励ましの言葉を掛けた。

人数が増えるのは別に構わない、いや、構わないわけではないが、腕の立つものであれば有難さもある。しかし自分達は組織の命を受けて、冒険者達とは違うところを目標としている。金でも、名誉でも、冒険心を満たす為でもない。そんなところに真っ当な道を歩む冒険者を招き入れるのは流石に抵抗がある。それに見知らぬ人間と話をするのは正直なんの楽しみもない苦痛の時間だ。ただでさえ大変な迷宮の探索に、余計な重荷を加えたくないのも本音だ。

メイは露骨にがっかりした顔で宿屋を後にし、一足先に副官達が待っている冒険者ギルドへと足を運んだ。

 

冒険者ギルドの一室には、男女二人組の白髪のナイトシーカー、視力を失ったのか片目の眼球が真っ白に濁った筋骨逞しい剣闘士風の大男、そして浅黒い肌の年齢不詳のシノビがひとり。他にも何人か希望者がいたらしいが、男達はジェントルとロマーンを前にして身の危険を感じて立ち去り、少数だが集まっていた女はロザリーの目つきと雰囲気に恐れを成してギルドを後にした。

そんなことで諦める程度の者には端から用は無い。帰ってくれてむしろ有難いといったところだ。

「それで、この4人は?」

「あー、なんか全員組織絡みらしいぜ」

改めて注視してみるとシノビの男には見覚えがある。レムリア上陸時の演説中に、目星を付けていた数人の中にいた男だ。ナイトシーカーの二人組も腕はどれほどのものか定かではないが、立ち姿に独特の雰囲気がある。

「わしは猿手のマシラ。組織では三猿という部隊にいた。独自に動いていたが、やはり独力では限界がある。是非お主らと手を組みたい」

「三猿、役割を誘拐・尋問・脅迫の三つに分けた対外交渉の為の部隊だ。猿手のマシラといえばその中でも指折りの尋問のプロ、中々に心強いな」

ピカロが知識をひけらかす様に続ける。勝手に話を進めないで欲しいが、組織の人間であれば放置するより管理下に置いた方がいい場合もある。目的が同じ以上、手を組むのも悪手ではない。

「我々は組織から、その場その場で最も目的達成に近い者を手助けするように命ぜられています」

「どうぞ御自分の手足と思って使って下さい」

二人組のナイトシーカーが片膝を着いて、メイに向かって上半身を屈める。補足も兼ねて耳打ちしてくるロザリーが言うには、元々はマギニア乗船者の中では地位的に高いピカロに着こうと様子を伺っていたが、メイ達に制圧されたことで見限り、しばらく赤蛇の旅団の動向を探っていたらしい。

彼らの言動をそのまま組織からの評価と捉えるのは軽率だが、それなりの期待をされていると考えれば、別に嬉しい出来事ではないが、さほど悪い気はしない。

そして残る一人、筋骨逞しい剣闘士風の大男。

「俺もこいつらと似たようなもんだ。どうせ組織に使われるなら、少しでもいい立ち位置にいてえし、お前らが秘宝を掠め取る時におこぼれに肖りてえ」

なるほど、誰も彼も嘘をついている様子はない。しかし急に4人も増えると、面倒に思う気持ちと煩わしさが重苦しく圧し掛かる。

「わかった。でも私の独断で決められないから、少し待ってて」

メイは顔を引きつらせながら4人にそう告げて、ロザリーと赤蛇の三人を連れて部屋から出た。

 

心の底から何かを拒絶する時には万力で絞めたような頭痛がする。とは誰から聞いた言葉だったか、メイは椅子に腰かけて頭を押さえながら、副官と気心の知れた仲間の顔を見上げる。

「多過ぎない?」

「そうか。これでも減った方だぜ」

ロザリーは特にどうということもない、といった様子で平然と答える。同じくラシャもオズワルトもアリスも異論はないらしく、口々にそのうち慣れるから大丈夫だ、と説得力の無い言葉を掛けてくる。

瞳を閉じて、もう一度頭の中を整理する。戦力が増える、安心は出来ない、4人もいる、組織の人間だから放置は出来ない、寝首はかかれないだろうか、3人でも多い、腕は保証出来る、正直2人でも辛い、しかし気を置ける相手ではない、選りに選って4人もいる、めんどくさい。

メイは激しい頭痛を感じながら、なるだけ負担の少ない方法は無いものかと思考を巡らせ、いっそ別動隊を作ったらいいのではとの結論に達した。

流石に4人も増えたら大所帯だ。ギルドを3つに分割し、本来の意味での赤蛇の旅団5名を一つの部隊、それとは別にピカロとジェントル達を中心とした別動隊、マシラとモーゼス一家を中心とする情報収集部隊。そういう分け方はどうだろうと提案すると、今まで聞き耳を立てていたのか、大男が扉を開き、鼻息荒く歩いてくる。

「おいおい、俺はなるだけいい位置にいてえんだ。別動隊だ? それじゃ完全に下じゃねえか!」

メイは大男の反論を聞きながら、そういえば名前をまだ聞いてないことに気づく。

「どうした?」

「なんて名前だっけ?」

「名前? 俺は生まれながらの孤児だ、そんなもんはねえ。いつぞや俺を捕まえた連中が564号と呼んでたこともあったくらいだ」

メイは同じ孤児である男に微かに共通点を見つけ、継ぎ接ぎの様な名前でも付けられただけ自分は恵まれているのかもしれない。それに関しては、妙齢の女剣士に感謝した。

「でも名前が無いと不便か、ちょっと待ってて」

メイはなにかこの大男にふさわしい名前は無いものかと思案し、そんなものは必要ない、という言葉を片手を突き出して遮り、それでもなお頑なに拒もうとする大男の顎を棍棒で突き上げ、平衡感覚を失い膝から崩れた大男の顔を指さす。

「決めた。あなたの名前はベスティアね」

「ベスティア? なんだそりゃ?」

「獣って意味よ。気に入らないなら自分で考えたらいい。それと私達赤蛇の旅団は私が隊長、ロザリーが副官、っていう役割はあるけど上下はないわ。組織に使われる駒のくせに、誰が上だの下だの馬鹿馬鹿しいじゃない」

メイは微かに微笑みながらベスティアを起き上がらせる。

半ば不意を突かれた形とはいえ力で屈服させられた元囚人564号は、おそらく反感を抱くことを前提に付けた名前を受け入れ、渋々ではあるが目の前の赤髪の少女に従うことにした。彼にとっての力は、この世の中で唯一平等に与えられたものだ。それに背いてまで通す我など初めから持ち合わせてはいない。

「いいだろう。ただし俺はあんたと同じ部隊で働きてえ、それが名付け親の責任ってもんだ」

「名付け親も何も、あなたの方が倍は年上なのに?」

「それでもだ」

こうして赤蛇の旅団に剣闘士(ソードマン)のベスティアと猿手のマシラ、それにふたりのナイトシーカーが加わった。

別動隊を作る、という案はピカロの謀略も懸念されて、ほぼほぼ全員一致で却下となり、メイの負担は減ることはなかったのである。