世界樹の迷宮X妄想マスタリー雑記 4周目 天球を抱える星術士

思い付きでつづる妄想マスタリーも4周目ですって奥様

Ⅲ 赤髪の冒険者と航海王女

名も無いナイトシーカーのふたりが眼前の黒い犬のような目の男に跪く。

「レドリック殿下、ゲルトルード・ヴァン・メイストームとその副官ロザリンド・グロリオーサ、更に配下のアリス・キャロルと元囚人564号現在名ベスティアが海の一族と手を結びました」

「赤蛇の旅団か。バグラッドめ、部下を甘やかすからこうなるのだ」

レドリックと呼ばれた褐色の肌の男は嘆息混じりに毒づき、名も無いナイトシーカーの二人に問い掛ける。

「お前達が直に奴を見ての所感で構わん、奴が組織を裏切り海の一族につく、その可能性はあるか?」

「あの者は簡潔に言ってしまえば合理の者です。丁重に正しい評価と待遇を与えれば、その可能性は皆無と思われます。しかしそうでない場合となれば、何の躊躇も無く組織相手に刃を向けるでしょう」

「もしそうなったとして、奴はどのくらいの脅威となる?」

ナイトシーカーの男は思わず口を噤んだ。眼前の男は組織の中でも上位、大幹部である六花議会に次ぐ地位にいる大物であり、正当な血統からは外れてはいる分家の末端ではあるものの組織内唯一のマギニアの王族、言葉を間違えば今この場で首を刎ねられてもおかしくない。当然、彼らが抗って勝てる相手ではない。

「一対一の戦いとなればレドリック殿下の圧勝でしょう。しかしあの者も厄災のひとつに数えられる危険種、あれが本気で闇に紛れて牙を剥けばどれだけの命が奪われるか計り知れません」

「だろうな。俺もそう思っていたところだ」

レドリック・マギニアス、彼は一対一で負けることはない。年齢による経験と技術の差があり、なにより王家に伝わる軍旗のひとつを授かっている。握る者に膨大な生命力と強靭な精神力を与え、その身に軍神の加護を授けるマギニアの軍旗がある限り、同じナイトシーカーの技を使う者に引けを取る道理は皆無である。しかし現実はそう単純なものではない。不意打ち、騙し討ち、罠、敵はありとあらゆる手段を用い、当然部下の首も狙ってくる。もしあの厄災が敵に回れば、自分はともかく部下の命は保障出来ない。故に海の一族を利用するつもりであれば黙認するが、もし組織を裏切り海の一族に着くのであれば、それなりに手を打たねばならない。

面倒なことになったものだ。本音を言えばどうなろうと知ったことではないが、父や食糧庫の祖達が丹念に作り上げてきた、そしていずれは自分のものとなる組織だ。存在を揺るがしかねない事態を見過ごすわけにもいかない。もし先祖の言に背いてマギニアの騎士団に居続けたら、もしタルシスの傭兵団にでも身売りしていたら、こんな絶海の孤島で頭を抱えることは無かったのだろう。或いはそれでもこのレムリアに流れる運命だったのか。それはわからないが、今よりはずっと自由自儘に生きていたのだろう。

レドリックは二人を下がらせて、眉間に皺を寄せながら、そっと指で押さえた。

 

「俺達が手を組んだことは、くれぐれも航海王女には黙っておいて欲しい」

ジールとゴンザロにそう釘を刺されたメイ達は次の迷宮「古跡ノ樹海」に潜っていた。その迷宮はこれまでのものより荒廃が進み、壁や通路は樹木や雑草に侵食され、ところどころに聳え立つ瓦礫の山が複雑さを深めている。視界こそ広いものの乗り越えたり隙間を抜けるには難しい障害物と化した瓦礫に、更に視界に入るよりも遥か以前にこちらを感知し、瓦礫を無視して上空を飛び交う蝙蝠に警戒を余儀なくされ、まだ連携の取り切れないロカ族との呼吸の合わせづらさもあり、探索に掛かる疲労度はこれまでの迷宮よりも遥かに多い。

メイは倒しても倒しても湧いてくる蝙蝠にうんざりしながらも迷宮を奥へ奥へと進み、地下2層へと降りると、豊満な胸を半分ほど露わにした角兜を模した王冠を被った少女と遭遇した。海の一族と思わせる恰好からして、この自分よりも若干年上の、反面育ち具合は同じ人間とは思えない少女が航海王女と呼ばれる海の一族の首魁だろう。

航海王女、水兵達から陰でガキだの言われながらも疑いようのない信頼を勝ち取った人物で、10以上の言語を喋り、絶対的な強運と優れた頭脳で海の一族をここまで導いてきた人物だ。

事前に聞いていた情報では、己の手で秘宝を見つけたい欲求に逆らえなかったのか、それとも王女自らが迷宮に挑む事で水兵達の鼓舞を狙ったのか、この迷宮に潜っているとは聞いていたが。想像していたよりも更に年若い少女を前に、水兵長との密約もあり声をかけるか否か迷っていると、

「あなた達、さては水兵達が噂してたマギニアの連中ね! 流石はマギニア、と褒めてあげる。よく私がここにいるとわかったわね」

航海王女がまくし立てるように喋りながら踵を返し、

「だけど捕まるわけにはいかないわ!」

そう捨て台詞を残して、脱兎の如く廃墟の奥へと走り去っていった。

危険な生物が徘徊する迷宮を何の躊躇も無く走り抜ける姿は、水兵達に希望を与える勇気と逞しさを思わせもすれば、心配せずにはいられない放っておけなさも覚える。初対面の名も知らない少女の身をいつの間にか案じている自分に気が付き、航海王女があの若さで水兵を率いている理由は人を知らず知らずのうちに引き付ける不思議な魅力かもしれない。メイはそんな分析をしながら、仕方なく航海王女の後を追った。

「さすがに放っておくわけにもいかないよね」

「そりゃそうだ。あのお嬢ちゃんに野垂れ死にでもされたら、海の一族と手を組んだ意味がねえ」

ロザリーも同意して、後を追う。

「そういえばア・ローカよお、お前ら航海王女と面識はねえのか?」

「俺達はジールとゴンザロに直接雇われてるだけだからな。アーテリンデという冒険者と違って、王女様とは面識もない。正直、顔を見るのも今のが初めてだ」

どうやらロカ族と王女に面識はなく、更に詳しく尋ねてみるとアーテリンデとも直接遭遇したことはないのだそうだ。おそらくジールとゴンザロが独断で雇い、王女に陰ながら助力させるために雇ったのだろう。密約を隠すのも王女の誇りを傷つけない為かもしれない。

王女を追う道中で、迷宮の中を果敢に突き進む人影と遭遇する。海の一族に雇われている冒険者、アーテリンデだ。
「こんにちは、アーテリンデ」
「あなた達、マギニアの指令で探索中? それとも好奇心かしら?」
メイはどっちもと答え、ジールとゴンザロからアーテリンデにも伏せて欲しいと口留めされていたことを思い出し、余計なことは喋らずに簡素な挨拶をする。
アーテリンデは辺りを見回しながら、
「ハイ・ラガードにある世界樹に、同じような迷宮があったのよ。見て驚いたわ。どうしてこの島にハイ・ラガードの世界樹があるのかって」

と当然の疑問を抱く。結論に至りそうにないので考えないようにしていたが、確かにこれまでにもタルシスやアーモロード、エトリアのものと同じような迷宮があった。おそらくこの先にもそんな迷宮があるのだろう。メイはそのことをアーテリンデに告げる。

「不思議ね。ところであなた達、この辺で少女を見なかった?」

「少女って、航海王女らしき子なら、さっき見かけたけど」

「よかった、やっぱりこの辺りに居るのね。ごめんなさい。あの子はあたしの雇い主で、樹海を歩きたいって言うから連れてきたら、勝手に何処かへ消えてしまったの」

どうやら独断ではなく、保護者同伴といった形で迷宮に挑んでいたようだ。メイは内心微かに安堵しつつ、しかし危険な状況であることに未だ変わりはない。自分達も探すのを手伝うので、もし先に見つけたら報せて欲しいと告げた。

「ありがとう。あなたも気をつけてね」

アーテリンデと約束を交わして、再び航海王女の後を追う。王女もその体格に似つかわしくない素早さだが、こと速さに関しては身軽で迷宮を歩き慣れているメイとロザリーに分がある。そう時間を置かずに航海王女に追いつき、念の為にその素性を確認する。

「あなたが噂の航海王女?」

「そうよ、偽物でも影武者でもないわ。私が海の一族の王女エンリーカ! 七つの海を股にかける船長で冒険家よ!」

メイ達は改めて自分達がマギニアに属する冒険者、赤蛇の旅団だと名乗る。

「赤蛇の旅団に、隊長のメイね。覚えておいてあげる。それで目的はやっぱり私? 高名な航海王女を捕まえて、交渉材料にでもするつもり? でも、そうはさせないわ」

エンリーカが再び一目散に走り去っていく。後を追いかけようと足を踏み出したが、彼女の騒々しさが引き寄せた獣達に阻まれて見失ってしまった。

「まったく、人騒がせな王女様だな」

ア・ローカが呆れながら槍を振り回し、獣を追い払ったのを確認して息を吐く。

ギニア側としては王女を捕虜にして海の一族を牽制するつもりはないようだが、そんなことをしでかしそうな連中に心当たりがある。心当たりがある、というより、自分達の属する組織は平然とそういう手段も用いる。あとでオズワルトとラシャに声をかけておこう。

メイは王女の走り去った方向を眺めながら、航海王女の身を少しだけ案じて、気を引き締め直してその足跡を追った。