世界樹の迷宮X妄想マスタリー雑記 3周目 赤髪の暗殺者

思い付きでつづる妄想マスタリーも3周目ですのん

Ⅲ 海底の迷宮と海の落とし物

どうしてこう面倒な方へ面倒な方へ事を進めるのだろう。

ギニアが海の一族の駐屯地付近に展開した演習部隊を眺めながら、メイは呆れながら嘆息する。マギニアはブロートと名乗る磁軸を抜けた時に出会った例の冒険者から得た情報を基に、海の一族の先遣隊が失った資料を回収する作戦に出た。マギニア軍が大袈裟に軍事演習を行い、海の一族の目を引き付けている間に冒険者を海底の迷宮に送り込んで資料を運び出す。紛失したものを手に入れても問題ないだろう、とはギルド長で現在探索司令部を姫の代理で動かしているミュラーの言だ。

「問題ないかどうかを決めるのは、持っていかれる側なんだけどね」

「で、ジールとゴンザロはなんて?」

ギニアと海の一族の衝突を避けるため、現場で陣頭指揮を執るジールとゴンザロには今回のマギニア側の意図を伝えておいた。彼らは資料を持っていかれるのは仕方ない、と半ば仕方なく了承し、もし何か遺品を見つけたらそれだけは渡して欲しい、と頼んできた。そして、人数差から自分達から仕掛ける真似はしないが、水兵達の感情次第では抑えつけれるかわからない、とも。

元より荒くれ者の海賊達だ。怒りに火がつけば、瞬く間に牙を剥くだろう。今回のマギニアの出方は理由としては十分だ。

「どうにか衝突する前に資料を回収したいところだけど」

メイ達は小舟でマギニア軍の陰に隠れるように迷宮へと近付き、ちょうど真上にあたる場所で櫂を漕ぐ手を止めて、静かに海の中へと潜っていった。

 

海底の迷宮「海嶺ノ水林」、まるで迷宮そのものが海の中のように海流が発生し、魚や海獣が泳ぎ回り、珊瑚が群生する一見美しくも不可思議な迷宮だ。壁面や天井は海水に覆われ、当然地面よりも高い位置まで満ちた海水により、腰のあたりまで浸かりながら緩やかな流れに逆らって進まなければならず、思った以上に体力を奪われる。それ以上に厄介なのが生息する海獣、特に大型の肉食獣がこれまでの迷宮と段違い強靭な事だ。

先の迷宮で形容し難い猛獣を討ち取ったメイ達だが、その腕を以ってしても一撃二撃で仕留められるものではなく、とにかく探索するだけでも並々ならぬ苦労を要する。

それでも無事に幾つかの資料を回収できたのは、これまでの探索の経験が活きたからだろう。決して深追いせず、油断せず、常に頭を働かせて知恵を振り絞り、時には踵を返して逃げる。欲しいものは強敵相手に逃げ出さなかった名誉でもなければ、討ち取った海獣の数を称賛される記録でもない。そんなものは蛮勇を気取る他の冒険者にでも任せればいい。

そうやって慎重に進んでいくメイ達の前に、例のマギニアに情報を流した冒険者ブロートが姿を見せる。

「首尾よく資料を回収しているようだな。こちらが情報を流したとはいえ、お前達は中々有能なようだ」

「そいつはどうも。で、お前の目的はなんなんだ?」

ロザリーが眼前の胡散臭さを隠しきれない男を睨みつける。どうやら今回の、掌の上で踊らされている様な事態が気に入らないらしい。

しかしブロートは意に介することなく、その問い掛けにも答えず、飄飄とした様子でメイに神秘的な雰囲気を醸し出す海の色をした球体を手渡してくる。罠か、と瞬時に判断したメイは、その珠を避けるように半身を反らし、両手を前に突き出して無防備な姿のブロートの顔面に鮮やかな赤色の棒を打ち込む。

球体が手から離れ、水面に落ち、静かに漂う。

メイは慌てて飛び退いたが、どうやら爆発したり毒を発したりする類のものではないらしく、その球体はぷかぷかと浮かんでいる。

「痛たた。これは海珠といって、潮の流れを鎮めてくれるらしい道具だよ。お前達に貸してあげようと思ったんだ」

「なんで? 私達に貸す理由がない」

「理由はある。俺も先遣隊のひとりだったからね、海の一族の資料は沈めておくには惜しいし、マギニアに手に入れてもらって活用してもらいたい。それに資料が実際に彼らの手に渡れば、俺の事も今以上に信用して貰えるからね」

ブロートが紅く腫れた鼻を押さえながら続ける。

「情けない話だが、この迷宮、海獣から古代魚からやけに手強いだろう。俺一人で進むのは無理だと判断して、誰か他の見込みのある連中に任せようと思ったんだ」

ブロートは最後に労いの言葉を掛けて立ち去って行った。あの男の目的は未だ不明だが、誰しも他人に語れない理由の一つも抱えているものだ。自分達などマギニアを出し抜こうとし、海の一族と手を組んでいるのだ。他の冒険者が大なり小なり腹に一物抱えていても不思議はない。

メイは海珠を拾い上げて、迷宮を更に奥へと進んだ。

海珠は教えられた通り、潮の流れを鎮めてくれた。おかげでこれまで海流に阻まれて進めなかった道や回収できなかった資料にも手が届く。あの男がどこで誰から海珠を手に入れたのか気にはなったが、情報が足りなさ過ぎてその答えは出そうにない。メイは一旦疑問に蓋をして、資料回収の為に更に足を踏み出した。

 

迷宮を出て小舟に戻ったメイ達は、来た時と逆回りで陸地に戻り、改めて回収した資料を開いて目を落とす。

『レムリアの伝承』『幻の古代文明』『海の一族』『秘宝について』『皆伝の書』、今回の探索で回収できた資料は5つ、まだ探索出来てない場所のことも考えれば、あと1つか2つは残っているだろう。

「どうする? 一旦ミュラーに渡しておくか」

「その前に写本を作ってからね」

幸いミュラーは衛兵達と共に演習場にいる。まだ資料が回収されたことを知らないので、写本を作る時間は十分にある。そのままマギニアに渡しても構わないが、貴重な資料をそのまま渡すのは少し引っかかるところがある。

メイ達は宿屋〈湖の貴婦人亭〉の一室を借りて、羊皮紙の束に向かって筆を走らせ、黙々と資料を書き写した。

「ねえ、ミズガルズ図書館の連中が新しく図書館を作ったらしいけど、そこに売れたりしないかな」

アリスがそんな提案をしてくる。

ミズガルズ図書館、世界各地の貴重な文献や書物の保管と管理を専門的に行う組織で、マギニアにも複数のギルドを作れるくらいの人数が乗り込んでいる。その名はメイ達の組織でも語られる程度には知られており、最近海都アーモロードの占星術師と共に市街地に図書館という名目の資料保管所を作ったらしい。

彼らならそれなりに色を付けた金額を提示してくれるだろうが、目先の金でマギニア軍の怒りを買うのは悪手だ。それに回収されるのは仕方ないとしても、公に公開するのは海の一族も望むところではないだろう。

「却下」

写本はあくまで自分達の為だけに作っておこう。メイはそんな意味合いを込めて、アリスに返事した。