世界樹の迷宮X妄想マスタリー雑記 3周目 赤髪の暗殺者

思い付きでつづる妄想マスタリーも3周目ですのん

Ⅲ 皆伝の書と新たなる名前

東夷の武士団、大将であり将軍の捨丸、彼女の右腕で忍者のカイナ、武士団の切り込み隊長である武弁の御太刀、若手の指南役で鉄砲隊を率いていたシャレコウベ。戦力としてメイに手を貸してくれる以上4名とメイは、海底迷宮探索で発見した皆伝の書に目を通していた。

皆伝の書、海の一族の先遣隊が失った資料の一つで、古代レムリアの民が開発した技能書であり、一定程度以上の技量を持つ熟練の戦士や術士に別系統の技能を習得させる指南書である。メイ達組織の暗殺者はタルシスのイクサビトに伝わる双牙武典に記された技術を応用した独自の方法で別系統の技能を習得していたが、ロカ族や東夷の武士団はその術を持たない。今後厳しさを増すのは間違いない探索において、技能の拡大は必須である。

メイは要点を記した簡易的な指南書を各々に渡し、彼らが技能を習得している間に改めて組織のことを調べることにした。

 

久しぶりに会ったモーゼス一家は心休まるところがないのか顔には積み重なった疲労を覗かせ、特に家長のウージーはこの短期間の間に随分と白髪が増えたように見える。

彼らは組織の大幹部、六花議会の情報を少しだけとはいえ得ている。それ以外の情報もある程度抱えているに違いない。組織の大幹部を目指すにせよ、組織の認める現場指揮官になるにせよ、最悪の場合乗っ取るにせよ、情報を抱えていても損はない。これまでその件を危惧していたモーゼス一家には申し訳ない気もするが、ここで情報を得るのは不可欠でもある。

ウージーは誰もいないことを念入りに確認し、ガリルとジェリコを店の見張りに立たせて、奥の客間で今まで抱えていた秘密を語り出した。これまで抱えるには重たすぎるものもあったのだろう、堰を切ったかのように饒舌に語り、メイ達は当初予想していたよりも随分と多い情報を手に入れた。

ギニア乗船組の最高責任者は今現在最も大幹部に近い地位にあるレドリック・マギニアス、その名の通りマギニア王族の出自ではあるが、分家末端の者であり正当な血筋を引いているわけではないので王位継承権は与えられていない。しかし食糧庫と組織が存在しうる理由のひとつが彼であり、その証が所有するマギニアの軍旗である。この男を納得させられれば、レムリアにおけるメイ達はその一挙手一投足を組織に邪魔されることなく自由に出来る可能性は高い。

そして六花議会のひとりが、サルバトーレ・マンドレイク。マギニアの元軍属でかつて食糧庫の統治全権を任されていた男。老齢でありながら今もなお組織内で絶対的な権限の持ち主。他の5人はわからないが、全員が全員、彼と同様に絶対の権力と秘密性を持つと思われる。

その情報を聞いたロザリーが、首を傾げながら釘を刺す。

「サルバトーレ・マンドレイクならもう死んでるはずだぜ」

ロザリーはかつてメイと女剣士と3人でこなした仕事を思い出した。標的は6人、食糧庫の重鎮サルバトーレ・マンドレイク、エイブラハム・デルフィニウム、ルイス・ベラドンナアルバートジギタリス、マーティン・ヘムロック、サミュエル・ダチュラ。そのどれもが食糧庫の重鎮或いはマギニアの政治家、周辺諸国の富豪やマフィアの首領もいた。標的が散らばっている上に費やした時間も半年近かったから印象に残っている。その6人が六花議会だとしたら組織はすでに空の椅子を崇め恐れている間抜けの集団とも言える。

「え、それ、誰だっけ?」

メイは記憶を懸命に掬い上げるが、その名前も顔も浮かばないことに半ば思い出すことを諦め、一方で長い仕事があったことは覚えていた。護衛も含めて3桁近い人数を始末した仕事だ。その頃から、メイは仕留めた数を数えるのが面倒になり、以後数えるのをやめた。

「お前、あんな大変だった仕事なのに覚えてねえのかよ」

「仕事は覚えてるけど、標的の名前なんていちいち覚えてないよ。ロザリーは食べたパンの枚数を覚えてるの?」

「パンと一緒にしたら失礼だろ」

ロザリーは改めて、この年若い隊長がバグラッドと師である女剣士の指示の下、夥しい死体の山を築いてきたことを思い出した。名前を覚えないことは、心理的な負荷をや和らげる為かもしれない。だとしたら責める気にはならないが、しかし気がかりなのは、サルバトーレ含む6人を仕留めた仕事にはバグラッドも関与している。あの男が標的を組織の大幹部と知っていたかは不明だが、組織も一枚岩ではないのか、それとも壮大な手の込んだ自殺か、どちらにしろ下にとっては迷惑な話だ。

「ほんとどうしようもねえ組織だよな」

ロザリーは吐き捨てるように呟き、となれば今最も権限を持つレドリックとの面会の手筈を整えることにした。

 

メイ達が調べ物をしている間、ロカ族と東夷の武士団は新たな技能を習得し、新しい二つ名を自らに名付けた。

ア・ローカは自身の持つ槍の技に剣士の速度を加え、かつての勇者シカ・リオの名乗っていたロカスピアーを、ロ・カーナは占星術に手数に応じて威力を増す技術を備えたロカメイジ、カ・シンラは治癒術に自らの分身を生み出す技能を加えたロカヒーラー、ラ・シーカは方陣術に照明弾などの化学を上乗せしたロカシャーマンを名乗った。

一方、捨丸は自身の二刀の技の打たれ弱さを補う瘴気の兵装を纏うことで故郷の神話に残る英雄スサノオの名を、御太刀は東方の武弁の刀術に西方の剣士の技能を足した侍マスラオ、カイナは忍術にメイ達暗殺者の短剣術を習得して幅を広げたくノ一、シャレコウベは鉄砲術に捨丸の指揮官としての技能を一部混ぜ合わせた新しい武者としてモノノフの二つ名を得た。

すでに暗殺術と拳闘術を習得していたロザリーも、かつて素手だけで深夜に単身標的の元を訪ねて仕留めてきた深夜の来訪者ナイトノッカーの肩書を継承し、暗殺術と巫術と巫剣を用いるメイも組織創生期に一部の者が好んで名乗ったアサシンの名を得た。

その場凌ぎの面も否定は出来ないが、戦力の大幅増強は成された。

「それじゃ、残りの資料を回収しに行こうか」

いつまでものんびりと修行に励んでいるわけにもいかない。メイはマギニアの軍事演習を止めさせる為にも、すぐにロザリーと捨丸、カイナ、シャレコウベを連れて、海底の迷宮の残り一角へと挑んだ。

東夷の武士団の戦力は流石という他ない。特に捨丸は自身の持つ、代々武士団の大将たらしめる一時的な不死性と合わせて、人間らしからぬ力を存分に奮った。カイナは同系統の技を扱うかつての仲間ラシャを彷彿とさせる技の冴えを見せ、シャレコウベは遭遇時には発揮できなかった見事と云わざるを得ない速射と高い精度を知らしめた。

彼らの力もあり、かつて海都アーモロードの世界樹で深都への門番を務めていた海王ケトスの名を名乗る巨大な鯨の化け物を見事討ち果たし、先遣隊の失った最後の資料『レムリア島の地図』を回収に成功した。

「捨丸、この地図、マギニアに渡すけど構わない」

「渡すのは不本意だが、そういう約束なのだろう」

捨丸としては海の一族と敵対するマギニアに力を貸すのは本意ではないが、全ては秘宝を手に入れる為、これまであれこれと画策してきたメイの邪魔をするのもまた本意ではないと己を納得させ、わざわざ自分の気持ちを確かめるメイのどこか人の好い部分に気分の良さを覚えたのであった。