世界樹の迷宮X妄想マスタリー雑記 3周目 赤髪の暗殺者

思い付きでつづる妄想マスタリーも3周目ですのん

Ⅲ 旧知の再会と塀から落ちた卵の話

窓から射し込む朝日が暴力的なまでに眩しい。

メイは顔を照らす日差しに顔をしかめながら起き上がり、航海王女と共に潜った海の一族の精鋭と彼らを追う形で突入したミュラー率いる衛兵隊に追いつく為、昨夜の内に整えておいた荷物に手を伸ばした。今から向かえば夕方には目的地である遺跡「西方ノ霊堂」に辿り着くだろう。あまり堂々とマギニア市街地を動き回るわけにはいかない捨丸ら東夷の武士団とロカ族とは現地で合流する予定だ。

「ロザリー、準備出来た?」

「出来てる。くっそ眠いよなあ、毎度の事だけどよ」

ロザリーが毒づきながら、詰めた荷物ではち切れんばかりに膨らんだバックパックを背負う。通常、迷宮の探索は数時間、長くても半日で切り上げる場合が多いが、今回のように急いで追いつかないといけない事情がある時はそう何度も街と迷宮を行き来するわけにはいかず、迷宮の前に構えたベースキャンプと拠点とする事になる。冒険者や衛兵であれば誰でも使えるベースキャンプには、個々に合わせた道具までは揃っていない。野営道具から回復薬まで必要なものは数知れない。その荷物を如何に選び、どれだけ小さく纏めるかも、冒険者としての経験と腕の見せ所だ。

これは最近気づいた事だが、どうも自分とロザリーはその辺りが絶望的に弱いらしく、毎回毎回不格好に丸まった荷物を背にベースキャンプを訪れる羽目になる。

不格好なバックパックを背負って宿屋を出ると、目の前を懐かしい匂いのする日に焼けた少年が通り掛かる。食糧庫の民が農作業に従事する時に着る厚手の長袖に赤い上着、腰に提げた剣と背中に担いだ手槍、見覚えのある顔と小脇に抱えた相棒の羊。他人の空似でなければ共にイスマイル農場で大地を耕していた少年だ。

「あれ、メイ隊長。なんでこんなとこにいるの?」

「なんでって、そっちこそ」

「実は魚を釣りにロカ族の領地に行ったんだよ。そしたらなんか色々あって、海賊みたいな連中と一緒に来る羽目になって」

少年はへらへらと笑いながら、大幅に端折った説明をした。

少年アリティ・ダリティはあまりの空腹から海に食糧を求めて、ロカ族の集落を越えて崖へと向かった。そこで幸運にもと云うべきか不幸にもとするべきか、ア・ローカ達が働いて稼いだ食糧、いわば仕送りを届けにきた海の一族の航海士と遭遇し、目の前に突然現れた食糧に我慢出来ず崖を降りて密航、そのまま樽の中に隠れていたら気がつけば絶海の孤島レムリアに辿り着き、道中獣や魔蟲の類に追いかけられながらも人の暮らす場所を探して歩き回り、ようやく市街地と大の字に横になれる宿を見つけたのであった。

「アーリーティー、おめえ何でこんなとこに来てんだよ、ええ?」

ロザリーがアリティの頭を帽子越しに掴み、自分の顔の前まで持ち上げる。

「あ、ロザリーのアネゴ。こんなとこで何やってんすか?」

「質問に質問で返すんじゃねえよ」

ロザリーは目の前でぶらぶらと左右に揺れているアリティーから手を放し、無駄に体を回転させて着地する姿を見下ろしながら、躾のなっていない野良犬を拾った時のような気分になった。

 

「へー、そんなことになってたんだ!」

霊堂まで向かう道中、島に来てからこれまでのことを説明すると、アリティは落ち着きのない振舞いに反して度量が深いのか、単に見た目以上に何も考えてないのか、メイが組織の大幹部となったことをすんなりと受け入れた。

「じゃ、俺も一緒に行く」

「遊びに行くわけじゃないんだよ」

「いや、俺、これでも意外と強いから」

メイはそう自慢気に話す少年を目を細めながら眺める。確かに運動神経がいいのは認める、体力も市街地から霊堂まで歩き続けている自分達に劣らない、しかしそれと実戦での強さはまた別だ。どれだけ鍛えた者でも、いざ互いに血を流すと委縮してしまう者も少なくない。もしかしたら山岳部に近い住民のようにロカ族との小競り合いを経験しているのかもしれないが、それが霊堂に住まう魔物や魔獣相手にどこまで通用するだろうか。

「やめといた方がいいと思うよ」

「大丈夫だって。無理だなって思ったら入り口で待ってるから」

アリティは妙に自信があるらしいが、それは実際に試してみないとわからない。余計な荷物を背負いたくないメイからすれば霊堂に連れて行く気はないが、もし本人が言う通りに十分な腕があるなら人手は多いに越したことはない。

捨丸やア・ローカと合流したら預けてみるか。メイは様子見も兼ねて丸投げしようと考えていた。

 

第3の霊堂「西方ノ霊堂」、秘宝への道を開いてくれると思われる場所であり、地下では海の一族とマギニアが功を競うように歩を進めているはずだ。

「無意味な衝突はしないと思うけど、王女とミュラーが鉢合わせになるのは避けたい。そういうわけで部隊を何組かに分けたい」

メイは部隊を複数に分ける案を提案した。先頭を進んで迷宮を探索し、水兵や衛兵から情報を聞き出し、航海王女やミュラーを追いかける第1部隊。その後を時間差で進み、負傷した水兵や衛兵や救出する第2部隊。外で待機して状況に応じて探索司令部や駐屯地への連絡を行う第3部隊。第1部隊はメイとロザリー、捨丸、力試しをしたいと言い張るアリティで決まり、第2部隊はア・ローカ率いるロカ族と探索能力に長けたアリスが務める事になった。

「うちの隊にもうひとりばかし欲しいんだけどよお、武士団から誰か来てくれねえか?」

ロザリーが隊を分けながら御太刀ら3人に声を掛ける。傭兵として生計を立てるだけあって彼らの戦闘力は頭一つ抜きん出ている。御太刀、カイナ、シャレコウベ、この中の誰が加わっても戦力としては申し分ない。それ故に人選に悩みもするのだが。

誰が同行するか互いに牽制し合う最中、事情をあまり把握していないアリティが能天気な声を上げる。

「一番強い人でいいんじゃないっすか?」

だったら自分だな、と3人同時に声を発し、更に緊張感の走る牽制が再開され、メイが仕方なく自分の技能との相性から速さに優れるくノ一のカイナを選んだ。

その結果、第3部隊はベスティアと留守番の二人で決まり、ベースキャンプで他の冒険者と連携を取り合いながら、経過を見守ることとなった。

メイは霊堂の内部へと続く階段に足を踏み入れ、微かに早まる鼓動を鎮めながら、

「長い冒険になりそうね」

海の一族とマギニア、両方の無事を願い、ゆっくりと迷宮の中へと潜っていった。

 

霊堂内部は予想通り、見上げれば吸い込まれるように高い天井に、入り組んでいる上に道を塞ぐ魔蟲が陣取る通路、飛び越えるには高すぎる巨大な壁、地面と壁の上を昇り降りしながら進まざるを得ない霊堂はやはり建造者の意図が見えてこない。単純に不便でしかないだろうに、どういう考えでこんな複雑な作りにしたのだろう。メイは視界を遮る壁を見上げながら、岩のように丸まって通路を塞ぐ魔蟲に視線を移す。

道中で遭遇した衛兵から得た情報によると、魔蟲は物音や気配は意に介さず、岩のように硬い甲殻を叩いたり斬りつけたりしても反応を示さない。ただ一定以上の距離を動かすと地面に擦れた脚に不快感を覚えるのか、突然その身を伸ばし、近付く者への敵意を剥き出しにする。上手く使えば他の魔物や魔蟲を封じる事も、壁と壁の間を繋ぐ足場の代わりにも出来そうだが、状況次第では行き止まりに追い込まれかねない。

更に厄介なのがもう一体、壁の上でも自由に駆け回る巨大な羊だ。他の生物に関心がないのか近距離まで近づいても敵意を向けたりはしないが、飛び降りることの出来ない壁の上で追い詰められたら文字通り逃げ場がない。

ある程度、情報を集めながら動きを先読みして、魔蟲を利用していく必要がある。メイは視界内に捉えた情報を片っ端から地図に記し、その間無防備に近い隊長をロザリー達が周囲を固めて守り通した。

アリティは想像以上に役立った。元々の素質に優れるのか一種の天才と呼ばれる類の域にあるのか、皆伝の書も組織の開発した手法も用いず、剣と弓のふたつの全く異なる技を使いこなし、かなりの高確率で残像を生み出し、その技を使う度に周囲の者に気力を分け与える不思議な技能を習得していた。

暴れ回る妖馬に素早く火矢を放ち、茸に擬態した魔物の側面に回り込んでまとめて射抜き、猛威を振るう怪力の魔猿には遠間から一足で斬り込む技で翻弄してみせた。

「メイ殿、あの少年なかなか大したものだな」

捨丸もその動きと立ち回りに素直に感服したらしく、残像を囮にして死角に回り込んで獰猛な山羊にも似た魔獣を射抜いたアリティに追随して、敵の首を刎ねてとどめを刺した。

それにしても何時の間にこんな技を習得したのか、メイがどこでそんな技を覚えたのか尋ねると、

「昔、塀の上から落ちたんだけど、そしたら使えるようになってた」

そんな理解に苦しむ拍子抜けした答えが返ってくる。どうやら自分の技能に対してあまり頓着がないらしい。或いは感覚的に使っている為に理屈で説明出来ないのか。確かに残像を生み出す技は説明が難しそうだが、それにしても適当過ぎやしないだろうか。どちらかというと理論と修練で技を磨くメイは、その答えに思わず眉を顰める。

ふたりのやり取りを聞きながらロザリーは、アリティが幼い頃に屋根の上から落ちて生死の境を彷徨い、妙齢の女剣士がどこからか持ってきた秘薬を飲ませたことで意識を取り戻したことを思い出した。噂に聞いたことがある。組織には触媒となる強靭な生命力の持ち主に毒を飲ませ仮死状態にした後に、捕らえ肉体を朽ち果てさせた術者の精神と魂を乗り移らせ、別人として蘇らせる秘術がある、と。あの秘薬はもしかしたら、だとして何故アリティを選んだのか、それとも誰でもよかったのか。六花議会を始末させたことといい、女剣士の意図はわからないが、こうして立派な戦力として働けることには感謝するべきかもしれない。

「組織の秘薬ね、マギニアに戻ったら調べてみるよ。レドリックが何か知ってるかもしれない」

「レドリック?」

「組織の幹部で、食糧庫の表向きの長」

「しばらく見ない内に、随分偉くなったんだね」

アリティが素直に感心して、驚いて目を丸くした顔をメイに向ける。表情からは特に敬意は伝わってこないが、久しぶりに再会した目の前の少年から、妙な態度を取られてもそれはそれで収まりが悪い。

出来ればこの少年のように、別行動をしているかつての仲間にも変わらぬ態度で居続けて欲しいものだ。メイはそんなことを少しだけ願った。