世界樹の迷宮X妄想マスタリー雑記 4周目 天球を抱える星術士

思い付きでつづる妄想マスタリーも4周目ですって奥様

Ⅲ メイとアーテリンデ

翌日、メイは約束通りに姿を現したアーテリンデと、互いに木剣と木杖を手に打ち合っていた。先日の蟲獣との戦い、あれは御太刀やシャレコウベの乱入が無ければ今頃全員が帰らぬ人となっていたかもしれない。これまでは自分が倒れても、他の誰かが残した情報を基に秘宝を探してくれればいい、と考えていたが、組織の長となり自分なりの願いも自覚した今となっては、やはり半ばで倒れるわけにはいかない。そのためメイは巫術と巫剣の扱いに関して自分より数段上のアーテリンデに、教えを乞う事にしたのであった。

アーテリンデは本職のドクトルマグスだけあって、巫術を自身の膂力への上乗せと応急処置程度の治癒にしか使っていないメイとは雲泥の差があり、更にどういう経緯で習得したのか不明だが、鋭利な鋼糸といった従来の巫剣士の技能にはない武器も好んで使った。

ひっくり返って空を見上げること十数回、ナイトシーカーの技も使えばそれなりの勝負も出来るだろうが、これは勝ち負けを競うものではない。訓練を通して一流の巫術と巫剣の扱いを理解することが目的だ。しかしあまりに技能の差があり過ぎる故か、どうにもこうにも手掛かりすら掴める気配すら漂ってこない。

アーテリンデも汗を拭いながら、木杖で打たれた手足を癒し、寝転がっているメイの隣に腰掛ける。

「どうだった?」

「いや、全然」

メイが素直に答えると、アーテリンデは笑いながら目の前の赤い髪を撫で、助言も兼ねて自分とメイの立ち回りの違いを、少しだけ過去の話を交えて語った。

アーテリンデには周りから畏敬の念を以て魔弾の銃士と呼ばれる凄腕の仲間がいた。今は故郷で隠居生活を送っている老人だが、現役の頃は二丁の銃を巧みに操り、攻撃は彼が一手に引き受け、自身は治療や搦め手に回ることが多かった。巫術や巫剣は本来そういう立ち回りのものらしく、中心に主軸となる人がいて、その戦い方に合わせて補助的に動き、時に攻勢に転じる。そういう意味では攻撃に偏り過ぎている自分も異端だ、と笑いながら説明し、メイの戦い方はそれが間違っているわけでも、誰が悪いわけでもなく、自身が中心になっていると指摘した。メイが出来ないことをロザリーや他の仲間が補い、攻撃に専念させてもらえる。それは有難いことだが、ドクトルマグスの戦い方とは根本から違っている。

「だからナイトシーカーの技能を伸ばして、巫術も巫剣もそれを補う程度に考えた方がいいかもね。それに巫剣はある線より上まで高めた巫術を剣に纏わせて初めて本来の力を引き出せるから、本職じゃないと使いこなすのは難しいかな」

「そうだね。アーテリンデの教わったら何か掴めると思ったんだけど」

しかし、これで暗殺術と巫剣の二者択一で迷いのあった自分を振り切ることは出来た。そういう意味では今日の時間は決して無駄ではない、メイはそう捉えてアーテリンデに軽く頭を下げる。

それからしばらくアーテリンデと話す内に、自然と互いの過去を少しだけ晒し合った。

メイは暗殺者として働き、数々の人を手に掛けたこと。アーテリンデは大事な姉を守るためにかつて数多くの冒険者を手に掛けたこと。動機は異なるが二人には共通する血に塗れた過去と、もし何かが違っていればという後悔があった。

「無理はしないようにね。あなたは自分で思ってる以上に周りから大事に思われてるのよ、あの荒っぽい副官やギルドの仲間だけじゃなく、捨丸達からも。あの4人が王女以外にあんなに心を許してるの、相当珍しいのよ」

アーテリンデの姉はかつて迷宮で自分を庇って命を落とした、その後天の支配者に見初められて永遠の命と魔物の力を与えられた。そのことを今でも悔やんでいるし、だからこそ航海王女の身を守ろうと懸命に走り回っている。そして合ってまだそう時間も経っていない一介の冒険者の身を案じてくれている。

メイは組織にいた頃には得られなかった有難さに感謝しながら、もう一度自分の手の中にある木杖に視線を向けた。

 

その夜、マギニア市街地に戻ったメイを、見知らぬ剣士と女騎士が待ち構えていた。

剣士と女騎士はミュラーの指令の下、赤蛇の旅団を補助するように派遣された衛兵隊の中でも指折りの実力者で、剣士の方は国内の拳闘試合と剣闘試合の両方で二冠の王者となったフランツ、女騎士の方は鉄壁の守りで数多くの衛兵の命を救ってきたサリーナ。このふたりが今後、赤蛇の旅団の一員として働く、というのだ。

「メイ殿、ミュラー様をお救い頂いた事、改めて感謝する」

「今度は私達がメイ殿の力になる番だ」

意気込みと心遣いは構わないが、これはどう考えても監視ではないだろうか。ミュラーには捨丸達のことを偶然遭遇してたまたま共闘したくらいに説明してあるはずだが、やはりそんな理由では納得してくれなかったのだろうか。仮に自分がミュラーの立場だったら同じことをするだろうから、何の不思議も無いのだが、食糧庫とマギニアとの不可侵が破られている事を知られるのは面倒だ。余計な話が伝わらないように、せめて宿泊場所だけでも別にしてもらうべきか。

捨丸達やロカ族が一旦駐屯地に戻っているのは不幸中の幸いだった。海の一族との密約まで知られたら面倒どころでは済まない。

メイはなんとなく人に馴れた犬のような印象を覚えさせるフランツとサリーナに、探索の際には声をかけるので今日は衛兵の宿舎に戻ってもらうよう頼み、二人がいなくなったのを確認して疲れ切った息を吐いた。

「特訓より疲れた」

メイはぐったりと肩を落とし、背中を丸めて、宿屋に戻り、カウンターに鎮座する猫のマリーンを撫で回して、深い眠りについた。