世界樹の迷宮X妄想マスタリー雑記 4周目 天球を抱える星術士

思い付きでつづる妄想マスタリーも4周目ですって奥様

Ⅲ ホムラミズチと世界蛇と赤い蛇

エンリーカや捨丸と一旦別れたメイは、落ち合う数日後までに試せる事は出来るだけ試しておこうと、ロザリーと共に市街地付近の森の中にいた。特に知らず知らずの内に身につけていた分身体、これが実際どのくらいの幅を持っているのか確かめておく必要があった。

三日三晩、ありとあらゆる検証を行った結果、幾つか確定的な能力を把握出来た。ひとつは分身体の姿、ただ呼び出そうとする分には骸骨に等しい竜牙兵と称される姿だが、自分の姿を正確にイメージしてから呼び出すと、己と瓜二つの姿の分身体が作れることが分かった。ただしイメージ化に要する苦労と集中力に反して分身体の能力は変わらない為、普通に魔物を相手にする分には不要だが、仮に人間を相手にする場合は効果的な囮や騙し討ちの術となるだろう。ちなみに他人の姿に出来ないかと試行錯誤したが、あくまでも自分の姿にしか出来なかった。所詮は自分から出てきたもの、といったところだろうか。

そしてもう一つ、意識を失うようなダメージを受けた場合、攻撃が当たる寸前に分身体が位置を入れ替え、文字通り身代わりとなってくれること。ただし平時は位置を入れ替えることが出来ず、あくまでも緊急事態に限って自動発動する能力のようだ。

メイは自分と瓜二つの分身体を眺めながら、これが何時どこで身に着いたのか、改めて首を傾げた。

 

翌日、メイとロザリーは、エンリーカや捨丸達と合流して迷宮の最下層に立ちはだかる巨大な魔物に挑む事にした。赤銅色に体皮を燃え上がらせる4本脚の巨大な大蛇、ホムラミズチ。メイも噂は耳にしたことがある。かつてタルシスで、武に長けた獣の亜人イクサビトを苦しめた炎の大蛇、自らの鱗を剥いで霊脈を貫くことで熱を得るという。タルシスの冒険者は鱗を破壊して洞窟内の温度を冷やして、その力を半減させてどうにか勝利を収めた。これまでの道中で熱を発する物体は壊しておいた。そのおかげか目の前のホムラミズチもぐったりと弱っている。

おそらく本来の力を揮われたら手も足も出ないだろう、しかし今は半死半生の手負いに等しい。ここで倒れるようなら秘宝に辿り着く資格などない、そう問い質されている様な状況だ。目の前にいる燃え盛る大蛇、その更に先にあるであろう世界蛇と呼ばれる秘宝、そして自らも赤蛇の名を冠した赤髪の暗殺者。道を塞ぐ蛇と、道を切り開く蛇。

この場この時を制したのは赤蛇であった。

さしものホムラミズチも弱った状態で毒を浴びせられ、竜牙兵と共に斬りつけられたら凌ぎ切れるものではない。弱っているとはいえ無尽蔵に近い生命力に苦戦はしたが、最後に立っている者が紛れもない勝者なのだ。ゆっくりと息を吐いて地面に腰を下ろしながら、心配そうに戦いの行方を見守っていたエンリーカと亜人の少年に笑顔を向ける。

「相変わらずやるわね、メイ。捨丸も。でも、この先も気を付けるのよ。この子が言うには亜人達は人間を嫌っているそうだから」

「だろうね。私でも見ず知らずの、しかも別の種族をそう簡単には受け入れようと思わない」

メイは考えられる限りの亜人の出方を思い浮かべ、無理矢理従わせる手もなくはないが、今は単純に恩を売るのが最適解だと判断した。わざわざ敵意を煽るのは悪手だろう、秘宝に関する手がかりを持っているなら猶更だ。

「その辺はエンリーカに任せるよ」

「だな。あたしは人相が悪いし、メイもよくわかんねえことになってるからなあ。頼んだぜ、女王様」

メイとロザリーは自分達の姿が警戒心を膨らませると自覚し、亜人との交渉はエンリーカに任せることにした。

「ああ、私達に任せておけ」

「いや、捨丸。おめーも怪しげな気配を出してるから、あたし達と一緒に留守番だな」

捨丸の家系は、代々東夷の武士団の大将たらしめる不死性を持つ。一定の年齢から老いることなく、一時的にではあるが肉体を不死者そのものにすることも出来る。その代償か体は日の光に対して火傷を負うほどに弱く、その身には誰もが警戒せざるを得ない人為らざる者の気配を纏ってしまう。見た目こそ普通だが、事情を知らぬ亜人からしたらメイと同じくらい油断ならざる存在だ。

「この場は私に任せなさい」

落ち込む捨丸にエンリーカが笑顔を向けて胸を張る。

 

亜人の集落の前で横たわって疲れを癒していたメイとロザリーと捨丸の前に、不服な表情を浮かべるエンリーカと護衛として同行したアリティとシャレコウベが戻ってくる。どうやら亜人の村で喜ばしくない対応を受けたようで、今にも歯軋りでも鳴らしそうな雰囲気だ。

「人助けをしてあんな言われ方するなんて心外よ!」

エンリーカが腹立たしさを隠さず、恥も外聞も無く子どものように地団駄を踏む。アリティが思わずその姿を凝視するが、すかさず捨丸がその目を覆い、そのまま地面に向けて引っ繰り返す。

メイは倒れたアリティの懐から追憶の音貝を取り出し、巻貝から流れる亜人の村で繰り広げられた遣り取りに耳を澄ませる。

「聞けヒトよ。我らはモリビト、森に生まれ森を守護する民だ」

聞き覚えの無い男の声がする。しかし言葉は自分達が使っている言語とほぼほぼ一致している。どうやらエンリーカ同様、複数の言語を使いこなせる者がいたようだ。

「子を救ってくれた事に免じ、今は貴様らを見逃そう。だが、再びこの地に足を踏み入れたなら命はないと思え! ここはヒトが来るべき地ではないのだ!」

「この無礼者め! 今すぐ叩き斬ってくれる!」

思わず怒りに身を震わせる捨丸を宥めて、メイは再び音に耳を傾ける。

「ちょっと待ちなさい! この先に世界樹への道が、繁栄を約束する秘宝があるんでしょ!」

エンリーカも亜人の言葉に黙っていられなくなったようだ。しかし亜人は淡々とした声で無慈悲に返す。

「ヒトよ。貴様らは欲望により行動し、同法を、そして他の者までをも傷つけた。この地にあるのは繁栄を約束するような物ではない。あれは欲望が具現化した姿、繁栄を破壊した災いそのものだ。過ちを繰り返したくなければ、一刻も早くここから立ち去れ!」

その言葉が終わった直後、まるで何かにぶつかったような甲高い音を巻貝が響かせる。じろりとエンリーカに視線を向けると、さっと目を逸らす。どうやら怒りの余り、追憶の音貝をどこかに投げつけたようだ。気持ちはわからなくないが、彼女の物でないのだからもう少し丁寧に扱って貰いたい。メイは溜息交じりに音貝を懐に仕舞い、秘宝がかつて自分が予想した通り、繁栄とは程遠い物であるかもしれない情報に頭を悩ませた。

秘宝が繁栄をもたらすような物でないのであれば、手に入れても飢えた食糧庫を救うことは出来ない。そんなものを苦労して手に入れても仕方がない。仕方がないのだが、もし単純に軍事力を高める物であれば、所有するだけでマギニアとの交渉を有利に働かせる道具になる。あまり気は進まないが、どこかの領地を奪う手段にも使える。しかし古代レムリアが滅んだ事を考えれば、手に余る力は滅びに繋がるのかもしれない。メイは思考を巡らせながら、エンリーカがどう判断したのか探りを入れる。

「ねえ、どう思う?」

「繁栄を破壊した災いだなんて、聞いてた話と違い過ぎるわ。メイ、私達は駐屯地に戻って皆と話をしてくるわ」

エンリーカはこの場では判断し兼ねるようで、海の一族と話し合い、今後の方針を決めるつもりらしい。確かにそれがいいのかもしれない。繁栄をもたらさない厄介事の為に徒に水兵達を消耗させるくらいなら、潔く身を引くのも正しい判断だ。勿論真偽を確かめる為に、更に調査を続けるのも間違いではない。メイは、ジールとゴンザロにもよろしく、とだけ伝えて、駐屯地へと戻るエンリーカと捨丸の背中を見送った。

 

「そんなことがあったのか!」

探索司令部で未だ行方不明のペルセフォネ姫の代理を務めるミュラーが、メイ達からの報告に驚きの声を上げた。姫は引き続き捜索中だが、一人の男と洞窟にいたという情報がもたらされたようで、ミュラーは男と姫の行き先が第4の霊堂の確率が高いと予想し、不安要素となる亜人モリビトを刺激しないように現在調査中の「絶崖ノ岩島」の遺跡を調べて欲しい、と頼んできた。

「頼んだぞ。伝承についての是非は、姫を助けた後で改めて話すことにしよう」

姫の捜索を承諾する前に、確かめておかねばならないことがある。食糧庫の民として、組織の長として、冒険者として。

ミュラー、もし秘宝が繁栄を破壊するものだったら、レムリアはどうするの?」

「それはまだわからない。しかし秘宝を手に入れるにせよ諦めるにせよ、姫の判断無しでは我々には決められない」

情けない話だ。熟練の軍人が、探索司令部で指令を下す者が、姫よりも随分と年を重ねた大人が、まだ若い姫の言葉無しでは決められないという。あまり接点を持たなかったが、ペルセフォネ姫もかわいそうだ、もう少し周囲がしっかりしていればむざむざ攫われることも無かったろうに。メイは半ば呆れた顔でミュラーを見据え、姫の捜索は手伝う、とだけ伝えて探索司令部を後にした。

「何か気に障る様なことでもしたか?」

「あー、別に気にしなくていいぜ。あいつも色々と思うところがあるんだろうよ」

ロザリーは仕方ないといった様子でミュラーの気を宥め賺し、肩を竦めてメイの後を追いかけた。