世界樹の迷宮X妄想マスタリー雑記 4周目 天球を抱える星術士

思い付きでつづる妄想マスタリーも4周目ですって奥様

Ⅲ 傭兵の国

「昨日は楽しかったね、ゲルトルード。人間でも亜人でもなかったけど、人の姿をしたものを斬るのは心躍るものがあるよね。そこで、お礼に私からひとついいものをあげよう。モリビトを模した抗体、百余名分の魂から作った鍵だよ。さあ、お迎えも来たことだし、これで世界を拡げちゃおう!」

枯レ森を更に絶望的に朽ち果てさせた景色の中で、赤髪の少女が髑髏を模した鍵の束をくるくると回しながら笑い掛ける。足元に放られた鍵を拾い上げて、何もない中空に射し込み捻ってみる。

目の前の景色が書割のように真っ二つに割れて、どこか遠くの荒れ果てた国の景色が、情報が、雪崩のように流れてくる。

「おっと、そろそろ起きる時間だよ。でも今回は大丈夫、今見たものはちゃんと覚えているはずだよ。それじゃ、続きを楽しみたまえ、アザレア」

 

メイがゆっくりと瞳を開く。疲れが残っていたのか少し居眠りをしていたようだ。目の前には赤い髪の男と女が一人ずつ椅子に腰かけ、その背後では部下であろう同じく赤い髪の連中が直立不動の姿勢を保っている。

傭兵国ライデン。代々傭兵を周辺諸国に派遣し、卓越した武勇とそれを支える優れた鍛冶技術を以て成り上がった傭兵の国。王は世襲でも選挙でもなく、その代で最も名を上げた傭兵から選ばれる完全な実力主義社会で、中には先代の傭兵王を殺害して王位を奪う者もいないわけではない。目の前にいる現傭兵王ヘルムートも、実父である先王を武力で追い落として奪ったくちだ。隣に座る傭兵隊長ペトラは先王の五女にあたり、ヘルムートの腹違いの妹でもある。が、傭兵国の価値観からするに隊長に選ばれた理由は実力によるものだろう。

そして今、ヘルムートは長く生き別れていた妹、先王の十三女を絶海の孤島レムリアまで迎えに来たのだ。それが暗殺組織の長で、食糧庫の実質的な代表で、航海王女と手を結ぶ冒険者で、マギニアの有するギルド赤蛇の旅団の隊長であるゲルトルード・ヴァン・メイストーム、彼らの名前を使えばアザレア・シュバルツェンである。

傭兵国ライデンは十数年前、存亡の機に面していた。先王はまだ幼い実子達を世界各地に逃し、自らの血統を残そうとした。そこで頼った手段の一つのが交流の海の一族である。友好関係にある勢力に心配事の種を預けた先王は見事隣国の侵略を退け、世界各地に散った我が子を呼び戻そうと試みたが、手放した二十名の実子の内、行方がわかったのはわずか数名。それから十余年、先王、そして王位を奪ったヘルムートは先王の実子を探し、ようやくメイまで辿り着いたのであった。

「アザレア、お前を我が国に迎え入れたい」

「お断りします。私にも立場がある、今更ライデンに戻るつもりはありません」

と申し出を断ったのが今朝方の話。決闘という実にわかりやすい、後腐れの無い形でメイが我を通したのがそれから半刻程後の出来事。そして現在、ヘルムートからライデンの王になるよう打診を受けている。王といっても国内の実務はこれまで通りヘルムートが取り仕切る半ば傀儡に近い王ではあるが、仮にもマギニア統治下の民が他国の王になってもいいものだろうか。

「いいんじゃねえか、別に国籍や戸籍があるわけでもねえし」

「俺一人ではマギニアを動かすのは難しい。他国の王という立場があれば、食糧庫の現状も少しは変えやすくなるかもしれない」

隣に座るロザリーが背中を押し、食糧庫の表向きの長であるレドリックの承認を得て、メイは首を縦に振った。組織の長、食糧庫の代表、ギルドの隊長、ライデンの王、そして目下最大の問題である世界蛇ヨルムンガンドと、それを呼び起こそうとするブロートと彼に操られるペルセフォネ姫。一年足らずの間に随分と肩書と荷物が増えた。メイはひとり風に当たりながら、憂鬱な溜息を吐いた。

 

「なんか、大変なことになってるね」

アリティが焚き火に薪を注ぎ込みながら、草臥れた顔をするメイに他人事感を隠さない言葉を掛ける。

「そうなんだよね」

「でもヨルムンガンドが復活しちゃったら、それどころじゃないよね。レムリアから生きて帰れるのかな。ねえ、今の内に海の一族と一緒に逃げる、っていうのはどうかな」

「エンリーカが秘宝を諦めてないみたいだから。ヘルムートもレドリックも言葉にはしないけど世界蛇に興味があるようだし、マギニアも姫を見捨てて逃げ出そう、とはならないだろうね」

メイは言葉を並べながら、ふと自分の中にひとつ明確な判断を思い浮かべた。世界蛇が復活して、モリビトの語る通りの危険な存在だった場合、マギニアの動力部を占拠してでも逃げ出さないといけない。マギニアがこの地で果てれば食糧庫は助かるだろう。組織も残りの者がなんとでもするだろう。しかしここに来ている皆は全滅する。それは後味が悪すぎる。

「アリティ、今から私が言うことを組織と海の一族とライデンの連中に伝えてくれない?」

メイは目の前の友人に遺言に等しい言葉を託した。