世界樹の迷宮X妄想マスタリー雑記 4周目 天球を抱える星術士

思い付きでつづる妄想マスタリーも4周目ですって奥様

Ⅳ 狼の巣

カリスと別れた後も探索を続け、迷宮の中層と下層の半分ほどの地図を完成させて戻ってきたティコ達を、困り顔の衛兵が待ち構えていた。

曰く、獣王の領域である「碧照ノ樹海」と飛竜の生息していた「原始ノ大密林」の間に新しい迷宮が見つかったものの、そこは大量の狼の巣と化し、制圧しようにも数が多過ぎてどうにもならない状況に陥っている、のだそうだ。

「なるほど、つまり狼退治をして欲しいわけね」

「狼自体はそこまで強くありません。群れの首領であるスノードリフトさえどうにかしてくれれば、後は我々でも制圧できます」

衛兵は群れの狼自体は敵ではない、といった様子で強気に語る。現実的にはその然程強くない狼に苦戦を強いられているわけだが、戦いは個の強さではなく数が重要だ、とする軍師も多い。圧倒的な物量は時に個の強さを凌駕する。それにこのまま放置して、無駄に衛兵を消耗させるのも具合が悪かろう。

「わかった。ちょうど試してみたい術もあるし、ひとつ手を貸してあげる」

ティコは衛兵から迷宮の場所を聞き出し、先程までの探索で疲れている仲間を置いて、狼の巣、通称「御神ガ原」へと向かった。

 

御神ガ原に辿り着くと、ティコの到着を待ち構えるかのようにアガタと、以前アザレアに紹介された地下街の住人達、夜盗の少女、鶏冠のように金色の髪を伸ばしたならずもの、頭にターバンを巻いた拳闘士の3人が静かに焚火を囲んでいた。

「あれ? 何やってるの?」

「少しお前に用があってな。こいつらはそのついでだ。さっさと手柄でも立てさせて、アザレアの命令から解放してやりたい」

アガタが静かに答えると、地下街の3人組が追い詰められた小動物の様な表情でティコに摺り寄ってくる。

「お願いします、ティコ・ブライエン。私達を連れて行って下さい」

「こいつらは元々、どぶねずみの巣に忍び込んで盗みを働いた罪人だ。アザレアからお前の役に立つまで永遠に待つように命じられ、先日金も尽きたんだそうだ。こうなると後は待ち続けるか、逃げるか、戻るかしかないが、内2つの選択肢が選ぶだけ無駄なのはこいつらがよくわかっている」

ひたすら待つ以外の選択肢を持たない彼らを見かねて、アガタは今回の迷宮の探索に借り出した。別に助ける義理もなかったが、彼らも一応は冒険者であり、顔を知った人間だ。そのままにしておくのも寝覚めが悪い。

だが、1回連れて行ったくらいで解決する話なのだろうか。ティコがアガタに問い掛けると、アザレアは彼らの処遇そのものには興味がなく、土産が相応の役に立ったとの報告を受けたら以後のことは気にも留めないだろう、と答えた。

「ふーん。あなた達も大変なのね」

ティコからしたら、どんな人間であろうと自分の持たない知識やそれを得る可能性を持ち、自分の邪魔をしない限りは、大事な知識の源である。このまま待ち続けるよりも、自由の身になって冒険でもしてもらって、新しい知識や発見物をもたらしてくれた方がいい。以前同行したオンタリオカレドニアの兵士、引き続き暇そうにフリーの傭兵に近い立場にいる彼らと組ませてみるのもいいかもしれない。

「いいわ、一緒に来なさい。その代わり、腕が立つところは見せてもらうよ」

「勿論よ。地下街で磨いた投剣術を見せてあげる」

「感謝するぜ。これでも勝手口ではちっとは名の知れてたんだ」

「右に同じだ。人間相手の拳闘術が狼にどこまで通じるかわからないが、きっと役に立ってみせる」

地下街の3人は顔を輝かせてティコにナイフや鎌や握り拳を見せつけて、意気揚々と狼の巣へと向かって行った。どんな人間でも役割を与えたら大なり小なり輝くのかもしれない、いや、それなりに役に立つ可能性があるから土産にされたのか。

3人の後姿を眺めるアガタの顔を覗き込むと、厄介事がひとつ片付いたように表情を微かに緩め、眼球だけ動かしてティコと目を合わせる。

「それで、私への用事って?」

「海都の冒険者を鍛えてるそうだな」

「カリスのこと?」

「で、どうなんだ?」

アガタは同郷の新米冒険者を気にしているようで、はっきりとは口にしないが、これまでの例えば大密林での言動から聞きたいことはわかる。おそらくカリスの身を案じているのだ。

冒険者には向いてないけど、自分が未熟だってわかってるみたいだから、無茶はしないと思う」

「そうか」

「それに心配してくれる相棒もいるみたいだしね」

ティコが自分達に食って掛かってきたロブのことを教えると、アガタは少しだけ思考を巡らせ、しかしどこまで話すべきか迷っている内に、一行は御神ガ原の狼の生息場所にまで足を踏み入れていた。

衛兵にも対処できるとはいえ、どれだけの数がいるかわからない狼の巣で、余計なことに気を取られるわけにはいかない。ティコとアガタは会話を切り上げて、周囲に潜む狼に意識を集中させる。

「宇宙(ウーニウェルスム)を覗く銀の円よ、天を回し地を駆け回れ」

ティコが右手を掲げ、掌の上に現れた銀色の円が微細な塵となり、輪を拡げるように四方八方へと散らばらせる。狼の位置が把握出来ればよし、個体の識別が出来なくても大まかな位置が分かればそれでよし。ティコは周囲にまだ危険度の高い狼がいないことを確認して、塵に戸惑う地下街の3人に術の説明をする。

「でも、力は感じないけど魔物も獣もうようよしているから油断しないようにね」

ティコは安堵する3人に釘を刺して、術杖を握りしめる。すると、偶然だろうか、急に発生した塵に驚いたのか、衛兵から聞いていたのとは違う体躯の小さい狼と獣王の迷宮でも見かけた狒狒が前方を通りがかる。

「先手必勝!」

夜盗の少女が短剣を投げつけ、それと同時にアガタが含み針を放つ。ならずものと拳闘士も各々武器を構えて、眼前の獣に向かって駆け出している。土産に選ばれるだけあって反応は悪くないし、頭の切り替えも早い。しっかりと経験を積めば一端の冒険者になれるだろう。アザレアも中々有能な土産をくれたものだ、とティコは感心し、術杖の先端に元素を集束させる。

「翼を持つ枯渇せしオルヤト、喰らえ喰らえ、生き血を啜れ」

先端に集めた元素で球体を作りだし、投擲機で石を投げるように術杖を振るって球体を射出する。放たれた球体は真っ直ぐに狼へと向かい、横腹にぶつかって消えた。真横から衝撃を受けた狼は悲鳴を上げながら地面に転がり、その隙を逃さないといわんばかりに拳闘士が覆い被さり、猛烈な拳打を撃ち込む。

「今の、星術とは違うようだが」

「星術だよ。私が新しく開発した術だけど」

ティコが自慢気に説明するが、思った程の威力が出ないことに不満を覚えたのか、術杖と先端に集めた元素を見つめながら、あれこれと形を変化させて思案する。アガタが刀のように尖らせたらどうだと提案するが、元素の形状変化がどうしても媒体とする武器に左右される為、球体以外だと安定しないのだと返した。

「よし、片付けたぜ!」

馬乗りになって狼に拳打を振るっていた拳闘士が声を高らかに勝利を宣言する。同時に狒狒もならずものの振り回した鎌で両腕を斬り飛ばされ、そのまま地に伏していた。

「あなた達、3人で新しくギルドでも作ったらいいよ」

「そうか。ティコさんが言うなら、それもいいかもな!」

3人は言葉を前向きに捉えて、合流した時に浮かべていた暗い表情も今や見る影もない。今回の探索が終われば自由の身となり、各々迷宮に挑む事になるだろう。しかし油断はまだできない。衛兵が語るスノードリフトと群れを形成する大型のスノーウルフ、これを退治するまでは気を抜けない。

一行がしばらく進むと、木々の向こうで青い毛をまとった大型の狼が周囲を見張る様に忙しなく左右に目を光らせている。おそらくスノーウルフだと思われる狼で、衛兵から聞いた説明では一匹が獲物を感知すると、周囲のスノーウルフも同時に獲物の位置を感知する。群れでの行動に突出した進化を遂げた種族なのだろう。出来れば気づかれずに仕留めたいが、あいにく遠距離からの攻撃手段が乏しい。が、感知前に戦闘に突入した場合、他の狼が感知するのかどうか検証もしておきたい。

ティコは極力見つからないように接近し、奇襲を仕掛けることにした。

「集まれ集まれ黒蜘蛛(ブラックウィドウ)、宴の時間だ、杯を満たせ。金星(ウェヌス)の老墓守、客人を火酒で持て成せ」

ティコが圧縮した超高温の火球を術杖の先端に置き、身を翻してスノーウルフの背後に躍り出て、振り向く前に火球を撃ち込む。全身を炎に包まれたスノーウルフは戦意それでも戦意を失わずに牙を剥くが、即座にアガタが刀を抜いて追撃を仕掛け、その首を刎ね飛ばす。

「他の狼が動く気配はないようね」

ティコが簡易式の望遠鏡で遠く離れた狼を観察するが、今の戦闘を感知した様子はなく、動かずに周囲の警戒に当たっている。どうやら感知の為の行動を取らせなければ群れに悟られずに済むようだ。

「これは貴重な情報ね、検証した甲斐があった」

ティコは羊皮紙の束に狼の生態を箇条書きに記し、後で衛兵に教えてあげようと呟く。

「今日は狼を全滅させないのか?」

「出来れば研究と考察を重ねて、万全の状態で挑みたいじゃない」

倒せるものなら倒しておきたいが、即席のパーティーで強敵に挑む程無謀でも無能でもない。地下街の3人は今回の検証に役に立ってくれれば十分で、スノードリフトへの対策が決まったら最善の組み合わせで挑みたい。とティコは考えていた。

「それに新しい術も不発気味だし、もうちょっと精度を上げておきたいよね」

術杖から放った球体が狼を仕留めきれなかったことにまだ不満が残るようで、ティコはぶつぶつと詠唱を唱えながら、術杖の先端に集めた元素をあれこれと形を変化させていた。

 

その晩、ティコ達は更にスノーウルフの検証を重ねて、体力に不安を感じるまで研究を尽くしてからマギニア市街地へと帰還した。市街地の入り口では茶色い髪を垂れ流した細身の男が、街路樹に体重を掛けて待ち構えていた。

「君がティコ・ブライエンですね。私はベルジア、アザレアの遣いで来ました」

ベルジアと名乗った青年は顔を強張らせる地下街の3人に視線を向けて、軽く咳払いをして喉の調子を整え、

「ご機嫌いかがかな、君達。私の大事なお友達のティコの役には立てたかね? 立てたのならば結構、君達を豚の餌にしなかった自分の選択を褒めてあげたい気分だよ。そこで私から君達に御褒美をあげよう、地下街に二度と足を踏み入れないという条件付きで、自由を保障してあげよう。冒険者になるのも、引き続きティコの役に立つ為に働くのも、野垂れて朽ちるのも自由だ。よかったね。ああ、お礼はいらないよ。泣いて感謝してくれるだけでお腹いっぱいだから」

ベルジアは器用に声色を変えて、アザレアの口調と身振り手振りを真似しながら伝言を伝え、再び軽く咳払いをして喉の調子を整える。

「以上です。個人的には罪人はすべからく豚の餌にするべきと考えていますが、アザレアが決めたことならそれもいいでしょう。それともう一つ、ティコさん、スノードリフトは狼を無尽蔵に呼び寄せると聞きましたが、それは本当ですか?」

「ええ。検証してみてわかったけど、スノードリフトは群れが獲物を感知した直後から、次から次へとスノーウルフを呼び寄せる習性があった。無尽蔵かはわからないけど、かなりの数が潜んでると思う」

ベルジアは成程、と呟き、ティコに礼を述べる。

「スノードリフト討伐、出来れば2日ほど待っていただけますか? アザレアから聞いていると思いますが、地下街は食糧不足でして」

どうやらベルジアは狼を狩って肉を得たいらしい。ティコがこちらは慌ててないと返事をすると、丁寧に上半身を屈めて礼を述べて、勢いよく頭を起こし、そのまま踵を返して去っていった。

気軽に上には行けない、と語っていたが、先日といい今日といいアガタといい、しれっとした顔で市街地に現れている。それに狼の巣の周辺はマギニアの衛兵が、狼が外に出ないように陣を張っている。もしかすると想像しているよりもずっと気楽に、住民同士や下位の衛兵とは交流できるのかもしれない。或いは賄賂でも渡して見逃してもらっているのだろうか。

ティコはそんな疑問を抱きながら、アガタや元地下街の3人と別れて、エリル達の待つ宿屋へと向かった。